才川夫妻の恋愛事情
ちょうどよくエレベーターが停まっていて、二人でそれに乗り込んだ。八階のボタンを押して浮上する。これが最後だ。降りる頃には〝才川くんと花村さん〟でいなければならない。幸いにも二人のほかは誰も乗っていなかった。最後の小言タイムだと思って、じっと隣に立つ彼の顔を見る。
「……なに」
「変態。むっつり。……絶倫男」
「犯すよ花村さん」
顔を引きつらせる私に向かって微笑む、その顔はもう会社での才川くんだった。
八階に着いてエレベーターホールに降り立つ。まだ油断はできない。歩くのが早い才川くんの後ろを一生懸命小走りでついていった。あともうちょっと。彼がオフィスへと道をそれても、私は直進して更衣室を目指すんだ。別れ際の挨拶はなしだろうか? そんなことを考えていると、道すがら竹島くんと新人の野波さんが目に入った。
挨拶して前を通り抜けようとすると竹島くんが口を開く。嫌な予感がした。
「なんだ才川夫妻。ラブホから仲良く出社か?」
「ちょっと! 竹島さん!」
隣にいた野波さんが慌てて竹島くんをたしなめる。……突然何を訊くかと思えば! ラブホじゃありませんけど! 家ですけど!!
時間がないところを呼び止められてイライラが募る。才川くん、なんで足止めたの。