才川夫妻の恋愛事情
「え! 〝で?〟じゃないですよ! 不思議じゃないですか。まったく会話もなしにハンコ渡して、書類受け取ってるんですよ? 医療モノのドラマで執刀医がオペ中に〝メス〟って言ったら看護師さんがそれを差し出す、みたいな。それを〝メス〟って口に出さずにやっちゃう、みたいなっ!」

「それめちゃくちゃ危ないわよね……?」

「そこじゃないです! びっくりしましたよ。っていうか……もしかしてうちの会社って、そういう読心術的な能力が必要なんですか……?」

「ぶっ」



松原さんは突然吹き出し、ぷるぷると震えだした。



「……松原さん、汚いです」

「野波がっ……面白いこと言うからでしょう! 読心術が必須スキルってあんた……違う違う。あれは単に付き合い長いからなせるワザ」

「はぁ……」

「うちの会社じゃ有名なのよ、〝才川夫妻〟って言ってね」

「あの二人ご夫婦なんですか?」

「んーん、二人とも独身。花村が〝お前は嫁か!〟ってくらい才川くんの思考を読んで動くから〝才川夫妻〟」

「そうなんですね……」



ちらりと問題の二人を見ると、今度は普通に言葉を交わしているようだった。男の人のデスクで彼女は傍に立ち、一つの書類についてあれこれ話をしている。



「そんなに気になるなら紹介しましょうか」

「え」

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