才川夫妻の恋愛事情
「才川夫妻のこと?」
望田さんはその童顔でまっすぐに私を見つめて訊き返した。それからふふん、と意味ありげに笑って、また、ペペロンチーノの中にフォークを差し入れてくるくると回す。……なに今の鼻につく笑い方。
「いいとこに目をつけたねぇ~新人。野波っていったっけ?」
「はぁ」
「目のつけどころがいいよ。あの馴染みすぎてもう誰も違和感を覚えなくなってる異常な関係に〝絶対になんかある〟って暴こうとする姿勢は大事! 見込みあるよ~」
「はぁ……」
ありがとうございます、ととりあえずお礼を言ってナフキンで口元を拭う。童顔で不敵に笑う先輩に違和感がありすぎて、私はさっきから微妙な相槌しか打てないでいた。
望田あかりさん。
先日産休明けで広告戦略を立てる部署に戻ってきたばかりの先輩。彼女もまた才川夫妻の同期の一人だ。
社内一の情報通で、ほぼ全社員の弱みを握っているという彼女に、ついに私は情報を求めることにした。具体的にどうしたかというと、お昼休憩の時間になった途端に戦略課の島に行って「望田さんランチ奢ってください!」と叫んだ。新人の特権です。