才川夫妻の恋愛事情
なんとなく、望田さんの証言は〝違うな〟と思った。だって全然ぴんとこない。
私の知っている花村さんは、みんなが見ていないときに才川さんに手を握られて、照れて。あんな恋してるような顔をカモフラージュでできるんだったら恐ろしい。
(……そうだ)
自分の頭の中から出てきた言葉で気付いた。
だから気になるんだ。
二人のやり取りのわざとらしさや以心伝心具合、ふとしたときの表情が似ていることから、実は本当に夫婦なんじゃないかと疑う一方で。夫婦にしては、花村さんのあの時の反応はやけに初々しかった。まるで才川さんに恋をしているみたいに。
夫婦みたいなのに、そこにあるのは家族愛と言うよりも恋な気がして。
きっと、私はその違和感に引っ張られてる。
「望田さん、この写真もらっててもいいですか?」
「ん? いいよ別に」
言いながら彼女はもう関心が次へと移ってしまったようで「デザートのケーキどうしよっかなー」なんて呑気な悩みをこぼしていた。
自分から訊いておいてなんだけど、今回の望田さんの証言は私の中であんまり役に立たなかった。
けれど一つだけ、収穫もある。もらった写真をもう一度眺める。
(たしかに)
この花村さんの困ったせつない顔には、何か意味があるのかもしれない。
並んで映るお似合いの才川夫妻の間に、この日どんなやり取りがあったのか。それはもう知りようがないけど。
でも花村さんの本心なら、花村さんがよく知ってるでしょう。
次のターゲットを定めて、私は元気よく「ごちそうさまでした」と言った。