才川夫妻の恋愛事情



「二人はいつ結婚するの?」

そう冗談まじりに訊かれるたびに、ちょっとだけ息苦しかった。




*




夜八時前。今日中仕上げで頼まれていた仕事が大方片付いた頃、うーんと大きく伸びをする。一日デスクワークをしていて体がガチガチになっている。マッサージ行きたいなぁなんて思いながら、少しだけ、才川くんお願いしたらやってくれないかなーなんて考えたけれど、頭の中のシミュレーションでは一瞬で失敗に思わった。どうせうまいこと丸め込まれて私がマッサージをさせられるんだ。見えた。

ボードを確認すると〝才川〟の欄は得意先往訪で戻り時間が夜九時になっていた。

今そこまで立て込んでる案件はないはずだけど、どうして戻ってくるんだろう。彼が行っている得意先の本社は遠くて、ここに戻ってくるのにも一時間以上かかってしまうはずだ。直帰すればいいのに。

待とうか、どうしようか。

オフィスを見回してみると、どこの部署も今は業務が落ち着いているのか残っている社員はわずかだった。私がいる営業二課も、自分以外には新入社員の野波さんしか残っていない。
新人を一人残して先に帰るのも忍びないと思って後ろの島を振り返った。



「野波さん」

「あ、はい」

「大丈夫? 今日もう松原さんは戻ってこないと思うけど……」

「大丈夫です。頼まれていたことは終わったのでちょうど帰ろうかなって。ありがとうございます」



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