才川夫妻の恋愛事情



「……ふふ。ないない。この時ちょっと悲しかったとしたら、はやまんを神谷くんにとられちゃう! ってことくらいかなー。実際結婚してから遊んでくれなくなったし?」

「ですよねぇ、私も、それはないんじゃないかなぁーと思いながら興味で訊いちゃいました」



すみません、と悪戯に笑いながら彼女は謝った。かわいく〝お話したいです〟なんて言いながらこんな話をぶっこんでくるんだから新人侮れない……。



その後も少しだけ野波さんと他愛のない話をしていると、デスクに置いていたスマホが震えた。確認すると得意先に出ていた才川くんから「今日直帰」とLINEが入っていた。

四文字熟語……。

絵文字もスタンプもないその文面に修行僧のような気持ちになる。もうちょっとなんかこう……もうちょっとさぁ!

スマホを握りしめながら野波さんに笑いかけた。



「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」

「そうですね。引き止めてしまってすみませんでした」

「いえいえ」



席を立ってボードの〝花村〟の欄に帰宅のマグネットを貼る。〝才川〟の欄も九時戻りと書いてあったのを消して帰宅のマグネットを。

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