才川夫妻の恋愛事情
野波さんとは会社を出てすぐ別れた。駅までの道を一人歩きながら、家に帰ったら何をしようかと考える。ほんとは溜まった家事がある。でもまだ九時前だ。その時間に一緒に家にいられることは珍しいので、この際溜まった家事は休日にまわして、DVDでも借りて帰ろうと浮かれた足取りで改札を潜り抜けた。
夜十一時過ぎ。私の予定では今頃リビングで借りてきた映画を一緒に見ているはずでした。それがどうしてこうなった?
「才川くん」
「何」
「でぃ「DVDなら見ないぞ」
「…………えぇ」
被せ気味に却下されてうなだれる。寝室で、お風呂からあがった才川くんは自分のベッドに座って文庫本を読んでいた。私は隣のベッドからただそれを見つめている。……解せない! 家の中だというのにこの距離感。
今から二時間ほど前。家の最寄り駅に降り立った私はレンタルショップで洋画のラブストーリーのDVDを五本ほど厳選して借りて帰ってきた。これで家での才川くんも甘い展開に流されてイチャイチャしてくれるはず! と我ながら安直な考えで妄想を繰り広げながら帰宅。
家の中に入ると洗濯物が畳まれていて感動した。その上、先に帰っていた才川くんは夕飯まで作ってくれていてテーブルにはナポリタンとサラダとコーンスープ。私の旦那様ってなんてハイスペックなんだろう……と恐ろしくなりながら、仕事の話をいくつかして夕飯を済ませ、才川くんはお風呂に入った。その間に私が洗い物をして、出てきた才川くんと入れ違いでお風呂に入る。体をピカピカに磨いて、ほどよく香るボディークリームで肌を包んだ。映画を見ている最中、何気なく触れたくなるように願いを込めて。
しかし結果はこれである。
映画は却下され、才川くんの視線はさっきからゆっくりとページを捲っている文庫本に釘付け。