才川夫妻の恋愛事情
「……五本借りてきたんだけどなぁ」
「五本も? 絶対全部見れないだろ」
「五本もあれば才川くんもどれか見たいのあるかなって」
「悪いな。なかなか読める時間とれないから今日はこっち」
そう話す間も一回も視線をこっちにくれない。何をそんなに一生懸命読んでるんだろう?
「そうですかー……」
確かに五本は借りすぎた。仕方がないから、今夜は一人で一本でも映画を消化しようかな……。借りてきたやつ、結構面白そうだし。そう思ってリビングへ行こうとベッドから降りたとき。
才川くんの手がちょいちょいと私を招いた。
「おいで」
……そんなまた、こっちを見もせずに。
招くその手の動きに、抗うことができずに才川くんの傍へ行った。すると彼は少し横にずれてスペースを作ったので、私は様子を見ながらベッドの中にお邪魔する。
けれど彼は本を読むことに集中したままでやめる気配もない。彼の隣で、一体なんで呼んだんだろうと不思議に思いながら見つめていると、片手が伸びてきた。
(わ)
大きな手のひらが頭を抱いたかと思うと、そっと彼の胸の上に抱き寄せられる。しなだれかかるようにして彼の胸にぴたっと耳をあてる態勢になった。
(……うわぁ)
「……」
才川くんはそうしておいて何を話すでもない。ぺら、とたまにページを捲る音が聴こえてくるだけで彼の集中力は途切れない。
これで構っているつもりなんだろうか?
お風呂で温まった体温に触れながら、トクトクと鳴る心音を聴いていると不覚にも満たされてしまう。ずるいなぁ。