才川夫妻の恋愛事情
胸に耳を当てたまま、しばらくそうしてぼーっとしていた。心音とページを捲る音と、才川くんの呼吸だけをBGMに。
そこでふと、黒のベッドサイドテーブルに目がいった。
「……」
鍵のかかった引き出し。
そこは私たち夫婦の間の不可侵領域だった。基本的には彼の私物の片付けもするし、洗濯だって二人のものをするくらいは夫婦として許されているけれど、その引き出しだけはどうにも触れがたくて。才川くんはたぶん、その引き出しの鍵を家の鍵と一緒に管理して肌身離さず持っている。
ずっと中身が不明だった引き出しだけど、ついこの間一度だけ開いた。中から出てきた紙切れのせいで一悶着あったけれどそれももう解決して落ち着いている。
……落ち着いたはずなんだけどなぁ。
引き出しにはまた鍵がかけられていた。
頭上でぱたりと本を閉じた音がして、胸に手をあてたままでそっと上を向いた。それに気付いた才川くんと間近で目が合う。
「……どうした?」
私が何か言いたげな顔をしていたんだろう。才川くんは目敏く察して瞳の中を覗いてくる。唐突に、あの結婚式の時の気持ちがよみがえって泣きそうになった。