才川夫妻の恋愛事情
翌朝。ベッドの中で目覚めると重みも違和感もなかった。約束できない、なんてちょっと期待を持たせる言い方するところがほんとにもう……。何もないってわかっていたけど。
いつも通り二人で朝食をとって時間をずらして出社する。今日は私が先に家を出た。あの朝みたいに、遅刻しそうでもなければ私たちは一緒に通勤することすらできない。
午前中、私より後に出社してきた才川くんは隣のデスクで新聞を読んでいた。昨日の夕方に得意先のお菓子メーカーが原料会社の吸収合併を発表して、それがどう取り上げられているのか確認するのだと言う。今朝私がメディア部の新聞担当から借りてきた全国紙の朝刊をデスクの上に積んで、一紙を広げて見落としがないように視線を滑らせていた。
邪魔をしないように、彼に確認したかった書類は後回しにして私は視聴率チェックを始める。
「花村さん」
「はい」
紙面に視線を落としたまま才川くんは私を呼んだ。なんでしょう、と左の席に座る彼に向き直った。
「印刷会社への支払い処理って済んでる?」
「済んでます」
「本社移転祝いの花の手配は?」
「先週のうちに」
「俺の出張精算」
「それも先週のうちに」
ちなみにそれはうちの家計に関わることなのでソッコーで処理しました。……と心の中で返事する。
「花村さん、百点満点だな。ありがとう」