才川夫妻の恋愛事情
右手の人差し指と中指で、キーボードの上に添えていた私の左手の薬指を撫でた。ちょうど、本当だったら結婚指輪がはまっているはずのあたり。
(えぇっ……)
私たちの手元が見えていない駒田さんはまだ何かを言っていたけれど、何も頭に入ってこなかった。
演技なのか素なのか。でも死角だから誰に見せるわけでもなく。くすぐられる左手の薬指に全神経を持っていかれる。彼の綺麗な手が、長い指先が。指の腹で、自分のものだって主張するみたいに薬指を。
「……っ」
嫌にドキドキした。
初めて彼が私の隣に座った日と同じくらい、ドキドキした。
入社三年目のある日。部署異動の辞令が出るまで会社ではまったく言葉を交わさなかった私たち。
彼が隣の席になった日のことは、よく覚えている。
〝よろしく、花村さん〟
今も昔も、私は同じことを思っていた。
撫でられた薬指を思いっきり意識しながら。
好き。
何を考えているの? 才川くん。