才川夫妻の恋愛事情
彼が隣の席になった日のことは、よく覚えている。
*
その辞令が出た日。
「あ。みっちゃん才川とおんなじ部だね? 同期で一緒なんて珍しい」
「……」
……誰か嘘だと言ってくれ……!
私は掲示板の前で膝から崩れ落ちそうになっていた。
入社三年目。四月一日付の人事異動では、近年で稀だと先輩たちが口々に言うほどの大規模な配置転換が行われた。部署を跨いでの異動も多く見られるなか、たくさんの社員の氏名が並ぶ貼り紙の中で。〝花村みつき〟は名前の順で〝才川千秋〟の下に名を連ねていた。その横に記載されている文章はどちらも同じ。〝営業二課〟
(聞いてない……!)
四月一日付の人事異動。内示は先々週に出ていて、部長からは異動があることを聞かされていた。
私は内示を出されたその日の食卓で確か、ご飯をよそいながら才川くんに「私異動するみたい!」と声高に報告した気がする。いや、した。絶対にした。でも才川くん、何も言ってなかったのに。異動なんて一言も。っていうか私二課って言ったよね!? 才川くんおんなじ部って絶対わかってたよね!? うわぁぁぁやられたぁぁ!
ほんとに膝から崩れ落ちそうだった。