才川夫妻の恋愛事情
午前中は引っ越し大会。前の週に引継ぎをきれいに済ませた私は、段ボール一つというすっきりとした荷物を両手に抱きかかえて二課のデスクへと向かった。……お、重い。一つにまとめられたものの、営業事務は手持ちの文房具類が多いのだ。ラベルシールのプリンターや広告媒体の料金表冊子まで入っているものだから、見かけ以上に重くて。
よろよろと二課を目指す。
才川くんと同じ部になることは予想外だった。でもこの時彼も私もまだ三年目。こんな若手たちを、しかも同期同士を組ませることはないだろう。接点はあっても電話の取次ぎくらいじゃない? それで席が部の端と端とかだったら……うん、なんか大丈夫な気がしてきた。いけるいける! おっけー!
と、足取り軽く、段ボールを抱えなおして弾みをつけたところで、つんのめった。
「ひゃうっ!」
変な声が出たことを恥じる間もなく前のめりに倒れこむ。
箱の中身をぶちまけなかったのは誰かが受け止めてくれたから。
「う……すみません……ありがとうございま――」
「大丈夫?」
「……あー……大丈夫、です」
抱えた段ボール越しに視線がかち合ってしまった。初めて社内で目を合わせた。家で見慣れているはずのその目に、自分が映りこむと異常に恥ずかしくて叫びそうになって逃げだしたくなる。
「ほんとに?」
――――動悸がする。