才川夫妻の恋愛事情
ちぇ、と思いながら最後に背中に投げ掛けた。



「今まで通りは、無理ですからね」

「なんで」

「ドキドキするから」

「……なんで?」

「……なんで、って」



急に振り返って真顔で訊くからうろたえた。なんでって、なんで。



「才川くん……お風呂は? 待って近い。近い! 近い近い近い!」

「みつき今日うるさい」

「っ」



シャツを脱ぎかけたままの姿で才川くんは、私の正面に立って両手を首元に差し込んできた。突然首に触れた体温にぴくっと反応したのを笑いながら、才川くんは二人だけの部屋で、内緒話をするように耳元で囁く。



「……今日楽しそう」

「っ……楽しくなんか」

「なんでドキドキするんだ?」

「勘弁してっ……」



ほんとにどれだけ意地が悪いのかと。
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