冬に響くセレナーデ
出会ってから1ヶ月ほど経ったある日、私たちはバレエを観に出かけた。今回はオーケストラとは別の劇場なので、ニコラスがチケットを取ってくれた。

「良い席は満席だったんだ。ごめんね。」

私たちの席は一番上の階だった。

「こんなに高いところは初めて!なんだかワクワクする。」

「でも、舞台の上の方の演出は見えないね。」

彼が残念そうに言った。

ローヤルバレエ団のチケットは人気が高いのですぐに売り切れてしまう。

「白鳥の湖、観たことある?」

「はい、何度か。それから、昔バレエを習っていたので、踊ったこともあります。」

「すごいね!オデット?」

「まさか!主役は無理ですよ!」

「ははは!でも、バレエをやっていたなら納得だな。」

「何が?」

「君、すごく姿勢が良いでしょう?」

「よく言われます。」

「やっぱりね。なんだか凛としたオーラがあるんだよね。」

「姿勢が良いだけで?」

「それも含めて、全てが醸し出す雰囲気っていうのかな?他の人にはない何かを持っていそうな気がするよ。」

「そんなの、ありませんよ。」

笑いながら言うと、彼は少し驚いたような顔をして、こう言った。

「もっと自分に自信を持たなくちゃ!」

「あまりかい被らないで下さい。」

「そんなことないよ。」

ニコラスはそっと私の手を握った。

「嫌?」

「…いいえ。私はただ、自信がないんです。音楽にも、自分にも。世界にはすごい人がたくさんいるじゃないですか。少し頑張ったところで、天才には敵わないでしょう。英語だって、やっとの思いで話せるようになったのに、あなたは英語もドイツ語も韓国語も完璧に話せている。そういうことですよ。」

「バカだなぁ。完璧なんてないのに。さあ、始まるよ!」
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