冬に響くセレナーデ
ニコラスと一緒にいると、色彩が違うように感じた。何もかもがキラキラ輝いて見えた。
恋の魔術…それとも夢?
「なんだって?」
「えっとね、私、夢を見ているみたい。」
「ははは、じゃあ、一生見ていてね。」
「うん!」
「腕かして?」
「え?こう?」
「そう。」
ニコラスは私の腕をヴァイオリンに見立てて演奏しているふりをし、歌った。
「トロイメライ!」
「そう、夢。」
「この曲、好きよ。」
「ずっと、夢を見させてあげる。」
「うん…。」
彼の漆黒の瞳は少し潤んでいるように見えた。
食事をした後の昼下がりは少しアンニュイな空気がたちこめる。ニコラスはそっと立ち上がり、窓の方へ歩いて行った。
晩ご飯はニコラスの希望でお鮨を食べに行くことにした。
「回っているのと、回っていないの、どっちがいい?」
「どう違うの?」
「うーんとね、回っている方は回転ずしって言って、手頃な値段で、創作メニューとかもあって、回っていない方は敷居が高いし、値段も高いけれど、美味しい!」
「僕、回っているお鮨は食べたことがないから、そっちに行きたい!」
「じゃあ、決定ね!英語表記があるところがいい?」
「いや、日本らしいところがいいかな。」
「でも、私、お魚の種類なんて英語で言えないよ。英語では魚は全部ひっくるめてfishでしょう?」
「いや、大げさに言えばそうだけど…。大丈夫、何か美味しいものを頼んでよ。」
「わかったよ。」
回転ずし店は混み合っていた。
「少し待つけど、ここでいいかしら?」
「オーケー。」
待ち合い席へと案内される。
「お鮨は人気なんだね。」
「クリスマスイブなのにね。お家で祝えばいいのに。」
「日本ではクリスマスは恋人と過ごすんだろう?」
「そうね…そんな人たちも多いよね。」
「僕らみたいに?」
「それはどうかな?ドイツから逢いに来てくれる恋人がいる人は、そう多くないと思うよ。」
「じゃあ、僕は特別だね!」
「いつだってね!」
「お待たせして致しました。カウンター席でしたらご案内できますが…?」
「よかった!」
私たちが席に着くと、威勢の良い掛け声が響く。
「わぁー、たくさん回ってるね!これは何?」
「これはー、平目!えっと、flatfish。」
「これは海老でしょう?こっちは?」
「エンガワ。えーと、なんて言えばいいのかな?」
「魚?」
「魚の縁。」
「縁?そんなところ食べるの?」
「もー、エンガワなんて英語存在しないよ!あえて言えば、ヒレ?」
「ヒレか。あー、これへ知ってる!雲丹でしょう?」
「そう!雲丹、大好き!」
「日本語って難しいね。」
「日本人でもたまに意味不明の言葉に出会う時があるからね。」
「そう考えると、英語は簡単かもね。」
「そんなことはないけど…。単純な言語ではあるかもしれない。でも、私なんて、知らない単語がいっぱいだから、常に『なんて言ったの?』って訊いてばかり!」
「でも、前にに会った時より上達してるよ!」
「本当?よかった!」
「心を豊かにする経験があったのかな?」
「あんまり、なかったかな?」
「嘘だー!」
「でも、いろいろなことを考えた。」
「どんなこと?」
「将来のこととか、音楽と数学の必要性とか。」
「たくさんだね。」
彼は笑いながら言った。
「ニコラスはなぜ、ヴァイオリンを弾くの?」
「うーん、小さい頃から父さんに習っていたからね。才能があるとは言えないけれど、他に特技もないし。でも、音楽は好きなんだ。要するに、好きなことを勉強するのは楽しいってこと。」
「楽しいの?」
「うん。でも、辛いことも多いけどね。」
「奏美は?将来のことを考えたんだろう?」
「うん、でも、どうしたらいいかわからない。」
「そのうちわかるよ。今はたくさん考えたほうがいいよ!人生の中で考えごとができる時間は短いと思うんだ。真剣に考えて。」
「ときどき、考えている自分がバカらしく思える時があるの。みんな気楽そうで。楽しそうで。悩んでいるのは、私だけに感じて。」
「それで?」
「それで、悲しくなる。独りじゃないはずなのに、寂しい。」
「僕はいつでもここにいるよ。」
「でもね、やっぱり距離は埋められないと思うの。」
「そっか。」
「だから、もっと傍に感じていたい。」
「そうだね…。」
「でも、現実的には無理でしょう?だから、悩むの。本当は何をするべきなのかって。」
「こうして逢うだけじゃダメ?」
「逢うのは嬉しいけれど、別れが寂しいから…。」
「そうだね…。」
私たちはたらふくお鮨を食べた。しかし、帰り道でショーウィンドウに並ぶケーキを見つけて、お店に入った。
「何が好き?やっぱりチョコレート?」
「なぜ私がチョコレートが好きなことを知っているの?」
「だって、毎日学校で食べてたじゃないか!」
「そう?私チョコレート中毒なの。」
「ドイツに帰ったら、たくさん送ってあげるよ。あっちのチョコレートは美味しいから!」
「楽しみにしてるね!」
ホテルに帰って、一緒にケーキを食べた。甘くて、ほんのり果実の酸味があって美味しかった。
「それじゃあ、そろそろ帰るね。」
「うん、また明日ね。」
「9時にロビーで待ってるから。」
「おやすみ。」
「おやすみなさい。」
恋の魔術…それとも夢?
「なんだって?」
「えっとね、私、夢を見ているみたい。」
「ははは、じゃあ、一生見ていてね。」
「うん!」
「腕かして?」
「え?こう?」
「そう。」
ニコラスは私の腕をヴァイオリンに見立てて演奏しているふりをし、歌った。
「トロイメライ!」
「そう、夢。」
「この曲、好きよ。」
「ずっと、夢を見させてあげる。」
「うん…。」
彼の漆黒の瞳は少し潤んでいるように見えた。
食事をした後の昼下がりは少しアンニュイな空気がたちこめる。ニコラスはそっと立ち上がり、窓の方へ歩いて行った。
晩ご飯はニコラスの希望でお鮨を食べに行くことにした。
「回っているのと、回っていないの、どっちがいい?」
「どう違うの?」
「うーんとね、回っている方は回転ずしって言って、手頃な値段で、創作メニューとかもあって、回っていない方は敷居が高いし、値段も高いけれど、美味しい!」
「僕、回っているお鮨は食べたことがないから、そっちに行きたい!」
「じゃあ、決定ね!英語表記があるところがいい?」
「いや、日本らしいところがいいかな。」
「でも、私、お魚の種類なんて英語で言えないよ。英語では魚は全部ひっくるめてfishでしょう?」
「いや、大げさに言えばそうだけど…。大丈夫、何か美味しいものを頼んでよ。」
「わかったよ。」
回転ずし店は混み合っていた。
「少し待つけど、ここでいいかしら?」
「オーケー。」
待ち合い席へと案内される。
「お鮨は人気なんだね。」
「クリスマスイブなのにね。お家で祝えばいいのに。」
「日本ではクリスマスは恋人と過ごすんだろう?」
「そうね…そんな人たちも多いよね。」
「僕らみたいに?」
「それはどうかな?ドイツから逢いに来てくれる恋人がいる人は、そう多くないと思うよ。」
「じゃあ、僕は特別だね!」
「いつだってね!」
「お待たせして致しました。カウンター席でしたらご案内できますが…?」
「よかった!」
私たちが席に着くと、威勢の良い掛け声が響く。
「わぁー、たくさん回ってるね!これは何?」
「これはー、平目!えっと、flatfish。」
「これは海老でしょう?こっちは?」
「エンガワ。えーと、なんて言えばいいのかな?」
「魚?」
「魚の縁。」
「縁?そんなところ食べるの?」
「もー、エンガワなんて英語存在しないよ!あえて言えば、ヒレ?」
「ヒレか。あー、これへ知ってる!雲丹でしょう?」
「そう!雲丹、大好き!」
「日本語って難しいね。」
「日本人でもたまに意味不明の言葉に出会う時があるからね。」
「そう考えると、英語は簡単かもね。」
「そんなことはないけど…。単純な言語ではあるかもしれない。でも、私なんて、知らない単語がいっぱいだから、常に『なんて言ったの?』って訊いてばかり!」
「でも、前にに会った時より上達してるよ!」
「本当?よかった!」
「心を豊かにする経験があったのかな?」
「あんまり、なかったかな?」
「嘘だー!」
「でも、いろいろなことを考えた。」
「どんなこと?」
「将来のこととか、音楽と数学の必要性とか。」
「たくさんだね。」
彼は笑いながら言った。
「ニコラスはなぜ、ヴァイオリンを弾くの?」
「うーん、小さい頃から父さんに習っていたからね。才能があるとは言えないけれど、他に特技もないし。でも、音楽は好きなんだ。要するに、好きなことを勉強するのは楽しいってこと。」
「楽しいの?」
「うん。でも、辛いことも多いけどね。」
「奏美は?将来のことを考えたんだろう?」
「うん、でも、どうしたらいいかわからない。」
「そのうちわかるよ。今はたくさん考えたほうがいいよ!人生の中で考えごとができる時間は短いと思うんだ。真剣に考えて。」
「ときどき、考えている自分がバカらしく思える時があるの。みんな気楽そうで。楽しそうで。悩んでいるのは、私だけに感じて。」
「それで?」
「それで、悲しくなる。独りじゃないはずなのに、寂しい。」
「僕はいつでもここにいるよ。」
「でもね、やっぱり距離は埋められないと思うの。」
「そっか。」
「だから、もっと傍に感じていたい。」
「そうだね…。」
「でも、現実的には無理でしょう?だから、悩むの。本当は何をするべきなのかって。」
「こうして逢うだけじゃダメ?」
「逢うのは嬉しいけれど、別れが寂しいから…。」
「そうだね…。」
私たちはたらふくお鮨を食べた。しかし、帰り道でショーウィンドウに並ぶケーキを見つけて、お店に入った。
「何が好き?やっぱりチョコレート?」
「なぜ私がチョコレートが好きなことを知っているの?」
「だって、毎日学校で食べてたじゃないか!」
「そう?私チョコレート中毒なの。」
「ドイツに帰ったら、たくさん送ってあげるよ。あっちのチョコレートは美味しいから!」
「楽しみにしてるね!」
ホテルに帰って、一緒にケーキを食べた。甘くて、ほんのり果実の酸味があって美味しかった。
「それじゃあ、そろそろ帰るね。」
「うん、また明日ね。」
「9時にロビーで待ってるから。」
「おやすみ。」
「おやすみなさい。」