冬に響くセレナーデ
ニコラスは26日にドイツへ帰ることになっていた。

「明日、帰っちゃうんだね。もっと長く一緒にいたかったな。」

「ニューイヤーコンサートがあるからね。仕方ないよ。今度逢う時は、もっとずっと長くいられるようにするから。」

「夏休みに必ず帰って来てね?」

「約束するよ。」

「うん。ねえ、日本で他にやりたいことある?」

「ある。出かけよう!」

私が連れて来られたところは、ジュエリーショップ。

「もうプレゼントは頂いたよ?」

「これはプレゼントじゃないよ。」

「何?」

「ジュエリー。」

「じゅえりー?発音できない!」

「ジュエリー。まあ、見てて。すみません、こんにちは。ペアのリングを探しているのですが?」

店員さんは突然英語で話しかけられても、動じなかった。

「はい、では、こちらはいかがでしょうか?」

「いえ、もう少しシンプルなものを。」

「では、こちらなどはいかがでしょう?」

「奏美はどっちがいい?」

「え、こっちかな?」

「じゃあ、これにしよう。サイズは?はめてみて。」

「え、少し、大きいかな?」

「同じものがございますので、少々お待ち下さい。」

「これ、買うの?」

「嫌?」

「ううん、嬉しい!」

「君に似合うと思うよ。」

「あなたにも、似合うと思う!」

私は覚えたての単語を使った。

「お待たせ致しました。」

「今度はぴったりね。」

「よかった。名前は彫れますか?」

「はい、少々お時間がかかってしまいますが、よろしいでしょうか?」

「どのくらいですか?」

「1時間ほど頂いております。」

「よろしいお願いします。」


できあがったリングは、驚くほど指に馴染んだ。

「素敵ー。」

ホテルに戻っても、私はまだ余韻に浸っていた。

「ねえ、見て。」

「何?」

ニコラスは部屋を暗くして、枕元のランプをつけた。

「本を開いてね、間に指輪を置くと、こうなるんだ。」

「わぁー!ハート!」

ランプの光が指輪の影をつくり、ハートに見える。

「そう、これなら僕の気持ちをずっと身に付けていられるだろう?」

「ありがとう。」

「光と影はどの世界にもあるだろう?」

「どこにいても、あなたを感じられるね…。」

「そういうこと。」

「ねえ、ニコラスって、とてもロマンチストだよね。」

「言わないで!恥ずかしいから!」

耳の先まで真っ赤になった彼は可愛らしく見えた。



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