冬に響くセレナーデ
7
木枯らしが落ち葉を舞い上げて、地面を滑ってゆく。冬の足音が聞こえたのと同時に、ニコラスが帰って来た。
「久しぶり、schatz!」
「待ってよ!」
ニコラスはちっとも変わっていない。
今年も冬がやってきた。
無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータの2番、シャコンヌ。音楽の授業中に、ニコラスが弾いているのが聴こえる。もの悲しい旋律、しっとりと、正確に刻まれる音。バッハを聴くといつだって心が洗われる。
私は全く先生の話を聞かずに、演奏ばかり気に留めていた。
授業終了のベルが鳴る。お昼休みはニコラスとミンジーと一緒にサンドウィッチを食べよう。
「終わった?」
彼が引き終わるのを待って、練習室に入った。
「待っててくれたの?入ってくればよかったのに。」
「聴きたかったの。」
「なになに?何か聞き逃した?」
ミンジーが駆けつけてきた。
「ミンジーは何しに来たの?」
「えっ、お兄ちゃん、ひどいよー!」
「みんなでお昼にしよう!」
「奏美は優しいのにねー!」
お昼休みは楽しい。ニコラスがいるともっと楽しい。
「ヘイ!」
楽しい雰囲気をぶち壊しに、先生が入って来た。
「ニコラス、彼女はいるの?」
突然、先生はニコラスに聞いた。
「あー、いますけど…。僕は彼女には相応しくないかもしれません。」
「なんだ、弱気だな!」
「彼女はきっと、世界で輝くために生まれてきた。でも、僕は…。ほら、こうでしょう?」
「そうか、それは、もっと頑張って、彼女に相応しくなれってことだな!」
「そうだろうか。」
「そうだよ。じゃあ、良い昼休みを!」
先生はバタンとドアを閉めて去っていった。
ミンジーと私は何だったのかわからず、ボケっとしていた。
「これが、トニーっていう先生だよ!」
ニコラスは一人で笑っていた。
「なんなのー。」
「さあー。」
訳がわからない二人は、その場に立ち尽くすしかなかった。
ニコラスは私に相応しくないのだろうか。私の方が、相応しくないならわからなくもないけれど、その反対はあり得ない。私は数日前の出来事をひたすら考えていた。
彼がヴァイオリンを弾くのが聴こえる。なんの曲だろう?私の知らないメロディーが流れる。心地いい、優しい音楽。今日もお昼はみんなで食べよう。
「今日も来ていたのね。」
「少しでも一緒にいたいからね。」
楽しいお昼休みはあっと言う間に終わる。終了の合図のベルは、いつだって鬱陶しい。
「ミンジー、次の授業は数学だよ。」
「うげー。」
「ニコラス、また放課後にね!」
「うん。」
私たちが練習室を出た後、ヴァイオリンを奏で始めた。タイスのメディテーション。小説をもとにしてマスネが発表した歌劇『タイス』の中で演奏される間奏曲。甘美なメロディーがニコラスのヴァイオリンとよく合う。
ーその曲、大好き。
私は彼にメールを送った。
ふと、演奏が途切れて、返信が来た。
ー僕も。
「久しぶり、schatz!」
「待ってよ!」
ニコラスはちっとも変わっていない。
今年も冬がやってきた。
無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータの2番、シャコンヌ。音楽の授業中に、ニコラスが弾いているのが聴こえる。もの悲しい旋律、しっとりと、正確に刻まれる音。バッハを聴くといつだって心が洗われる。
私は全く先生の話を聞かずに、演奏ばかり気に留めていた。
授業終了のベルが鳴る。お昼休みはニコラスとミンジーと一緒にサンドウィッチを食べよう。
「終わった?」
彼が引き終わるのを待って、練習室に入った。
「待っててくれたの?入ってくればよかったのに。」
「聴きたかったの。」
「なになに?何か聞き逃した?」
ミンジーが駆けつけてきた。
「ミンジーは何しに来たの?」
「えっ、お兄ちゃん、ひどいよー!」
「みんなでお昼にしよう!」
「奏美は優しいのにねー!」
お昼休みは楽しい。ニコラスがいるともっと楽しい。
「ヘイ!」
楽しい雰囲気をぶち壊しに、先生が入って来た。
「ニコラス、彼女はいるの?」
突然、先生はニコラスに聞いた。
「あー、いますけど…。僕は彼女には相応しくないかもしれません。」
「なんだ、弱気だな!」
「彼女はきっと、世界で輝くために生まれてきた。でも、僕は…。ほら、こうでしょう?」
「そうか、それは、もっと頑張って、彼女に相応しくなれってことだな!」
「そうだろうか。」
「そうだよ。じゃあ、良い昼休みを!」
先生はバタンとドアを閉めて去っていった。
ミンジーと私は何だったのかわからず、ボケっとしていた。
「これが、トニーっていう先生だよ!」
ニコラスは一人で笑っていた。
「なんなのー。」
「さあー。」
訳がわからない二人は、その場に立ち尽くすしかなかった。
ニコラスは私に相応しくないのだろうか。私の方が、相応しくないならわからなくもないけれど、その反対はあり得ない。私は数日前の出来事をひたすら考えていた。
彼がヴァイオリンを弾くのが聴こえる。なんの曲だろう?私の知らないメロディーが流れる。心地いい、優しい音楽。今日もお昼はみんなで食べよう。
「今日も来ていたのね。」
「少しでも一緒にいたいからね。」
楽しいお昼休みはあっと言う間に終わる。終了の合図のベルは、いつだって鬱陶しい。
「ミンジー、次の授業は数学だよ。」
「うげー。」
「ニコラス、また放課後にね!」
「うん。」
私たちが練習室を出た後、ヴァイオリンを奏で始めた。タイスのメディテーション。小説をもとにしてマスネが発表した歌劇『タイス』の中で演奏される間奏曲。甘美なメロディーがニコラスのヴァイオリンとよく合う。
ーその曲、大好き。
私は彼にメールを送った。
ふと、演奏が途切れて、返信が来た。
ー僕も。