冬に響くセレナーデ
翌朝、庭の芝生の上に薄っすら積もった雪は、わたあめみたいにフワフワしていそうだった。

ここに来て雪を見たのは初めてだった。この地域は山間部には積雪があっても、街に降ることは珍しかった。

「今日は静かだね。」

「雪が降るといつだって静かになるよ。そうだ、寒いから、韓国料理でも食べに行こうか?」

「温まりそうね!」

「美味しいところがあるんだ。」

「楽しみ!」

お店はとても暖かく、料理も美味しかった。

「今度さ、どこかに泊まりで行こうよ。」

「え?例えばどこ?」

「いや、近場でいいんだけどね。日本に行った時みたいに、一日中一緒に過ごすんだ。」

「良さそうね!」

「宿、探しておくね。」

「うん。」


さて、ママには何と言って泊まりに行こうか。ミンジーを利用するのは気が引けたけれど、私が仲が良くて泊まりに行っても平気なのは彼女の家くらいだ。ミンジーには何も言わない方がいいだろう。変に勘ぐられるのは嫌だ。

私はミンジーの家へ泊まりに行くふりをして、ニコラスと旅行することにした。

ニコラスとはコンサートホールの前で待ち合わせをした。一緒に車に乗り込んで、ドライブをしながら目的地を目指す。

「どこに行くの?」

「ダイヤモンドハーバー。」

「高級別荘地!」

「そうそう、でも、残念ながら別荘は持ってないから、ホテルを予約したよ。」

「素敵!着いたら何をする?」

「そうだね、何がいいかな?」

「私、お腹空いちゃった!」

「じゃあ、まずは食事だね!パスタが美味しいお店があるんだ。」

ニコラスはいつだってスマートだ。

1時間くらい運転して、ダイヤモンドハーバーに到着した。冬だからか、思ったより閑散としている。

「誰もいなくていいだろう?」

「二人だけの世界に来たみたい!」

チェックインすると、部屋の鍵を渡された。このホテルは部屋が一棟ずつに分かれているコテージになっていて、快適に過ごせそうだった。

「わあ!」

「東京のホテルよりも広いな!」

「本当ね!可愛いインテリア!」

「そうだね。」

「こっちにも部屋がある!」

「そっちは寝室だろう?」

「本当だ!ベッド大きい!」

二台並んだベッドは一人で寝るには広すぎるように見えた。

「食事に行こうか?」

この辺りはウィークエンドコテージ(週末を過ごす家)がたくさん建っていて、裕福な家族が街の雑踏での疲れを癒すために訪れる。彼らは平日を過ごす、シティーハウスも所有していて、上手に使い分けているようだ。

「このレストラン、素敵!」

「味も素敵なはずだよ。」

私たちはパスタと飲み物だけを頼んだ。まわりを見てみると、ご年配のご夫婦や一人で来ているマダムなどがいた。みんな自分たちだけの時間を楽しみにここへやってくる。ダイヤモンドハーバーを私はいたく気に入った。

「夏はテラスで食事もできるみたいだよ。」

「じゃあ、今度は夏にも来ようね。」

「そうだね。でも、夏だったらもっと良いところがあるんだ。少し遠いけどね。」

「えー、どこ?」

「ここからもっと南に行くと、小さな町があってね、そこに星の降る丘があるんだ。」

「聞いたことあるよ。山に囲まれた町でしょう?」

「そうそう、他には、古い教会が湖に面して建っていて、そこでとっても綺麗に星が見えるんだ。」

「夏は混むんでしょう?」

「そうだね、観光客も多いからね。」

「それでも行ってみたいなー!」

「奏美の家族はいつまでこっちにいる予定なの?」

「わからないけれど、前にパパの仕事をしていた人は10年いたみたいだよ。」

「じゃあ、まだ滞在しそうだね。大学の休みにこっちに帰ってきたら、一緒に行こうか。」

「うん!」

パスタが運ばれてきた。

「すごい!」

「魚介類がたくさんだね。食べるのが難しそうだな!」

「本当ね!」

食事を済ませて、お会計をした。

「部屋に戻ろうか。」

「うん。」

海から吹く風は強くなかったけれど、とても冷たかった。

「やっぱり車で来ればよかったね。」

「いいの。寒いけれど、同じ景色を見ていたいから。」
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