冬に響くセレナーデ
朝遅く目が覚めると、ニコラスはいなかった。
ーおはよう、schatz、ちょっと用事があるから、出かけて来るね。お昼には戻るから…。
メモと一緒にサンドウィッチが置いてあった。ポットには、コーヒー。彼はいつでも心配りができる。
さて、お昼まで何をしようか。
「ピアノ…。」
ニコラスの部屋にはグランドピアノが置いてあった。
「久しぶりに弾いてみようかな。」
ラルゴ…。ヘンデルのオペラ『セルセ』の第1幕で歌われるアリア『オンブラ マイ フ』。
極めて緩やかなラルゴのテンポで演奏されるのでこう呼ばれている。
小さい頃ママが聴かせてくれた。真似をして歌っていたから、今でも良く覚えている。
歌い終わると、玄関のドアが開いて、彼が帰ってきた。
「ニコラス!びっくりした!」
「イタリア歌曲…歌うの?」
「いいえ、ママの真似をして歌ってただけ。ママは声楽を学んでいてね、小さい頃、私によく歌ってくれたのを覚えていたの。」
「ねえ、もう一度聴かせて?」
「恥ずかしいから、嫌!」
「歌の才能、あるんじゃない?」
「そんなのないわ。」
「いや、本当に!」
「私、音楽はやめるの。」
「やめることないよ…今みたいに、気の向いた時に演奏すればいいと思うけど…。」
「うん…でも、勉強はもうしたくないかな?」
「でも、聴きに行くのはいいだろう?」
「そうね!」
「ヘンデルのメサイアの演奏会があるんだ。」
「日本では、年末といえばベートーベンの第9なのにね。」
「なんで?」
「わからないけど…。年末は必ずこれって決まっているの。」
「有名な楽団が演奏するの?」
「それもあるけれど無名のオーケストラと学生の合唱団がコラボして演奏することもあるのよ。テレビでも放送されるし…とにかく、年末の演奏会といえば第9ね。」
「変なの!」
「海外では常識じゃないんだね…驚くわ!」
「こっちの方が驚くよ!不思議だ…。」
「喜びの歌って、お正月にぴったりじゃない?」
「確かにー。」
花火の音と共に今年は過ぎ去ってゆく。カウントダウンが始まり、辺りはより一層賑やかになった。
「明けましておめでとう!今年もよろしくね!」
「こちらこそ、よろしくね!」
私たちは今年初めてのキスをした。
ーおはよう、schatz、ちょっと用事があるから、出かけて来るね。お昼には戻るから…。
メモと一緒にサンドウィッチが置いてあった。ポットには、コーヒー。彼はいつでも心配りができる。
さて、お昼まで何をしようか。
「ピアノ…。」
ニコラスの部屋にはグランドピアノが置いてあった。
「久しぶりに弾いてみようかな。」
ラルゴ…。ヘンデルのオペラ『セルセ』の第1幕で歌われるアリア『オンブラ マイ フ』。
極めて緩やかなラルゴのテンポで演奏されるのでこう呼ばれている。
小さい頃ママが聴かせてくれた。真似をして歌っていたから、今でも良く覚えている。
歌い終わると、玄関のドアが開いて、彼が帰ってきた。
「ニコラス!びっくりした!」
「イタリア歌曲…歌うの?」
「いいえ、ママの真似をして歌ってただけ。ママは声楽を学んでいてね、小さい頃、私によく歌ってくれたのを覚えていたの。」
「ねえ、もう一度聴かせて?」
「恥ずかしいから、嫌!」
「歌の才能、あるんじゃない?」
「そんなのないわ。」
「いや、本当に!」
「私、音楽はやめるの。」
「やめることないよ…今みたいに、気の向いた時に演奏すればいいと思うけど…。」
「うん…でも、勉強はもうしたくないかな?」
「でも、聴きに行くのはいいだろう?」
「そうね!」
「ヘンデルのメサイアの演奏会があるんだ。」
「日本では、年末といえばベートーベンの第9なのにね。」
「なんで?」
「わからないけど…。年末は必ずこれって決まっているの。」
「有名な楽団が演奏するの?」
「それもあるけれど無名のオーケストラと学生の合唱団がコラボして演奏することもあるのよ。テレビでも放送されるし…とにかく、年末の演奏会といえば第9ね。」
「変なの!」
「海外では常識じゃないんだね…驚くわ!」
「こっちの方が驚くよ!不思議だ…。」
「喜びの歌って、お正月にぴったりじゃない?」
「確かにー。」
花火の音と共に今年は過ぎ去ってゆく。カウントダウンが始まり、辺りはより一層賑やかになった。
「明けましておめでとう!今年もよろしくね!」
「こちらこそ、よろしくね!」
私たちは今年初めてのキスをした。