冬に響くセレナーデ
月曜日の個人レッスンで、先生は叫んだ。

「カナーミ!ブラボー!いいよ、いいよ!今日はもうこれで終わりにしよう!」

「はい。」

20分も早く終わってしまったけれど、今までで一番の演奏ができたと思う。



「入ってもいいかな?」

静かにノックする音が聞こえた。ニコラスは今日も隣の練習室にいたようだ。

「どうぞ。」

「とても良くなったね。」

「ありがとうございます。昨日言われたことが、すごくしっくりきて。」

「それは良かった。ねえ、突然で申し訳ないんだけど、これから時間あるかな?」

「ええ、はい。」

「ちょっと付き合ってね。」




私たちはある教会にやって来た。そこでは、アカデミーで音楽を学ぶ生徒の演奏会が開かれていた。

「ニコラス!元気だったか?」

「元気だよ。僕の友人を紹介するね、チェロのジハン。ジハン、こちらは奏美。」

「はじめまして。」

ジハンは手を差し伸べて、握手を交わしながら挨拶を交わすと、急に忙しいそうにキョロキョロしてこう言った。

「準備があるから、また後でね!」

そう告げたあと、韓国語で何かを言い、笑いながら控え室へと急いで行った。

まわりがザワザワしている。みんながニコラスを見ている。次々と人を紹介され、すぐに名前を忘れ、社交的で優しそうな人々が見守る中、演奏会は始まった。

「見て、みんなが君に注目しているよ。」

ニコラスが耳元で囁いた。

「え、なぜ?」

「だって、君が美しいから!」

「なんですって?」

「ははは!さあ、もう始まるよ。」


演奏会はとても聴きごたえのあるものだったと思う。しかし、私は演奏の直前に彼が言った言葉に衝撃を受けて、どこか落ち着かぬ気持ちで聴いていたので、うろ覚えだった。

私を美しいと言った。みんなが注目していると。平凡な生活を送ってきた私が、美しいと。

不細工ではないと思う。背も高い方だ。しかし、美しいだなんて、今まで一度も言われたことはないので、驚いた。

海外で日本人がモテる説は本当かもしれない…。



その後、私は家まで車で送ってもらい、帰り際にこう言われた。

「音楽は練習も大切だけど、心を豊かにすることはもっと大切だよ。」

その夜、私はなかなか寝付けなかった。



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