いとしい傷痕
そのときに、決めたのだ。

絶対にリヒトを追いかけて同じ大学に行くと。


でも、リヒトは私が高校生のときに、大学を卒業しないうちに東京へと移り住んでしまった。

それも私には一言も教えてくれなかったけれど、誰にも教えてもらえなくてもさすがに分かった。


マンションのエントランスを出て、地元では見られないくらいたくさんの車や人が行き交う道を、駅に向かって歩いていく。

そのとき、聞き覚えのある声が風にのって流れてきて、私はぱっと振り向いた。


そこには―――愛しい面影。


うっすらと緑がかった美しい瞳。

細く整った輪郭。

とがった顎。


昔よりも伸びた、緩く波うつ髪。

痩せて浮かびあがった鎖骨。


それらが目映い照明を浴びて輝いている。


そして―――誰もが心を奪われずにはいられない、胸をかき乱されるような切ない歌声。


「リヒト………」


レンタルCD店の外壁にある大型ディスプレイ。

その中でギターをかき鳴らしながら歌う彼に向かって、私はそっと囁きかけた。


「―――ずっと、ずっと、会いたかった……。会いに来たんだよ、あなたに」


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