いとしい傷痕
メジャーデビューして二年、有名ブランドのCMに楽曲が起用されて徐々に知名度が上がってきた若手ロックバンド、Dizziness。


リヒトは大学卒業を待たずに、東京のレコード会社にスカウトされて上京して、今、このバンドのギターボーカルとしてロック愛好家たちの注目を一身に集めている。

その容姿はもちろんのこと、音楽的素養の深さと、独創的で唯一無二の作曲センスによって。


私のリヒトは、誰もが認めざるを得ない輝きを、惜しげもなく放っている。


ディスプレイの中でまばゆい音色に包まれている美しい彼に、街行く人々が目を奪われている。


唇に笑みが浮かんだ。

私は、もうずっとずっと前から、リヒトを知ってるのよ。

あなたたちが彼を知るはるか前から。


彼の輝きを、彼の才能を、彼の歌声を、彼が奏でる音を、

きっといちばん最初に知っていたのが、私だ。


だって、私とリヒトは、誰よりも近くで、二人きりで過ごしてきたんだから。


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