いとしい傷痕
「日本人だよ……ちょっとだけ外国の血が入ってるけど」


いつものように返すと、ロウは「マジかー」と無遠慮に私の顔を覗きこんできた。

目立たないように少し顔を背けると、ちょうどピロティのテラスが途切れて、春の明るい陽射しが差し込んでくる。

それによって彼の目に自分がどう映るか、分かりすぎるほどに分かっていたので、私はすぐに顔を戻した。


「ちょっと入ってるだけなの? 外国人かハーフと思ったけどな」

「……普通に日本生まれの日本育ちで、日本国籍だよ」

「そうなんだ。それにしても、髪も目も色素うっすいよな」


ロウは興味津々の様子で私をじろじろと眺める。

不躾で失礼な男だ。


「外国の血が少しって、クォーターとかそういうこと?」

「うん、まあ。祖父がドイツ人で……あと、祖母も三代前にイギリス人がいたって」

「っへえー、すげえ」


なにもすごくないし、むしろ私は普通に日本人に生まれたかった。


小さい頃は、それほど外国の血が目立つ容姿ではなかった。

それなのに、なぜか成長するにつれてどんどん髪の色も瞳の色も薄くなってきたのだ。


夜の暗いところならそれもあまり目立たないけれど、昼の太陽の下では、隠しようもなく茶色く透けてしまう。


クォーターに毛が生えた程度なのに、どうして私はこんなにも『外国人っぽい』見た目なのか。

隔世遺伝というやつなんだろうけど、嫌になる。


その点でいくと、リヒトのほうが日本人に溶け込む容姿をしている。

私よりも血の濃い、いわゆるドイツ人と日本人のハーフであるはずなのに、リヒトは髪が黒に近い。

瞳の色こそ緑がかった茶色、いわゆるヘーゼル色だけれど、たまにそういう日本人もいるから、さほど目立たない。

顔立ちも彫りが深い日本人の枠におさまるだろう。


ただ、外国の血うんぬんより以前に、彼は見たことがないくらいに整った綺麗な容貌をしているから、目立つことには変わりはないんだけれど。


でも、私みたいに外国人に間違われることはないはずだ。


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