いとしい傷痕
小学生の頃はいつも男子から『ガイジン、ガイジン』、『ガイコクに帰れ』といじめられていた。

『普通と違う』ということが、この日本でどれほど生きにくいか。


外国人、もしくは外国の血が強いハーフに見える。

そのおかげで、私は初対面の人間から距離をとられて、遠巻きに観察されて、誰からも声をかけられないことが多いのだ。

同じクラスになっても、普通に会話できるようになるまで、他の人の数倍かかる。


小さい頃は、そのハンデを少しでも小さくしようと、自分から積極的に話しかけようとしたこともあったけれど、

戸惑ったような困ったような顔をされたり、明らかに疎外されたりするばかりだったので、

今はもう自分から近寄ることは諦めていた。


高校の間はほとんど友達がいなかったし、大学でも同じだろう。

そう、思っていたのに。


「それじゃあさ、英語もドイツ語も話せたりするこ? バイリンガル、じゃなくてあれか、トリリンガルってやつ?」


ロウがにこにこしながら話しかけてくる。

こんなふうに、会ったばかりで普通に話をしてくる人間は初めてだった。


「話せないよ、どっちも。英語は普通の学校教育受けただけだから皆と同じくらい。ドイツ語は全く分からない」

「あー、そうなんだ」


その顔で外国語しゃべれないの? なんて言われ慣れた言葉だ。


でも、ドイツ人の祖父は私が生まれる何年も前、リヒトが生まれてすぐに亡くなっているし、

祖母のユウコは英語もドイツ語も話せるけれど、私はあえて習おうとしなかったので、全くだ。


「それにしてもさあ、ミレイ」


いきなり慣れ慣れしく下の名前で呼び捨てにされて、驚いてしまう。

目を丸くして固まっていると、ロウが人懐っこい笑みで覗きこんできた。


「君、ほんとに綺麗な顔してるな。見たことないくらい美人だ」

「はっ?」


こんなことを面と向かって言われるのも初めてだ。


「……外人ぽいってだけでしょ……」


彫りが深くて睫毛も濃いので、そう見えやすいだけだ。


「美人は美人だろ」


彼は私の返答など気にしないふうに言った。


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