いとしい傷痕
「……ねえ、今の、モデルの人だよね」
しばらく言葉を失っていた私は、やっとのことで我に返ってリヒトに声をかけた。
彼は何も言わずにリビングのソファに腰を落とす。
私は「お邪魔します」と言って中に入り、リヒトの前に座った。
「雑誌で見たことあるよ。ミサが買ってる大人向けのファッション雑誌で、表紙になってた」
いま出ていった彼女は、ユリカと名乗っていた。
確か表紙のモデルもそんな名前だった気がする。
「ねえ、モデルのユリカでしょ?」
「知らねえ」
私の問いかけに、リヒトは興味もなさそうに気だるげに答えた。
「知らないって……」
「打ち上げで初めて会って、帰るっつったらついてきた女。名前も仕事も知らない」
「………」
返す言葉を失って、何気なく視線を動かす。
リビングの端に置かれたベッドが目に入って、心臓が跳ねた。
シーツがしわくちゃになった、乱れたベッド。
脱ぎ捨てられた服。
生々しさに硬直していると、ぐっと頭をつかまんで首を回された。
「えっ、なに」
「ガキが見てんじゃねえよ」
リヒトがそう言って、ローテーブルに置いてあった煙草の箱をとった。
ほっそりとした長い指で一本抜き取り、ライターで火をつける。
紫がかった煙が、私をよけて細く天井へとのぼっていく。
「……ガキじゃないし。私、もう、大学生だよ?」
むっとして答えると、リヒトが横顔のままちらりと私を見て、ふっと口角をあげた。
「セックスの後のベッド見て赤くなってるうちは、ガキだろ」
「……っ」
恥ずかしくなって、膝の中に顔を埋める。
セックスの後。
やっぱり、そうなんだ。
名前も知らないような女と、ついさっきまでリヒトは、そのベッドの上で抱き合っていたんだ。
ちらりと見上げると、開いたシャツの間から、色の白い、でも今は少し赤みを帯びている気がする胸が見えた。
しばらく言葉を失っていた私は、やっとのことで我に返ってリヒトに声をかけた。
彼は何も言わずにリビングのソファに腰を落とす。
私は「お邪魔します」と言って中に入り、リヒトの前に座った。
「雑誌で見たことあるよ。ミサが買ってる大人向けのファッション雑誌で、表紙になってた」
いま出ていった彼女は、ユリカと名乗っていた。
確か表紙のモデルもそんな名前だった気がする。
「ねえ、モデルのユリカでしょ?」
「知らねえ」
私の問いかけに、リヒトは興味もなさそうに気だるげに答えた。
「知らないって……」
「打ち上げで初めて会って、帰るっつったらついてきた女。名前も仕事も知らない」
「………」
返す言葉を失って、何気なく視線を動かす。
リビングの端に置かれたベッドが目に入って、心臓が跳ねた。
シーツがしわくちゃになった、乱れたベッド。
脱ぎ捨てられた服。
生々しさに硬直していると、ぐっと頭をつかまんで首を回された。
「えっ、なに」
「ガキが見てんじゃねえよ」
リヒトがそう言って、ローテーブルに置いてあった煙草の箱をとった。
ほっそりとした長い指で一本抜き取り、ライターで火をつける。
紫がかった煙が、私をよけて細く天井へとのぼっていく。
「……ガキじゃないし。私、もう、大学生だよ?」
むっとして答えると、リヒトが横顔のままちらりと私を見て、ふっと口角をあげた。
「セックスの後のベッド見て赤くなってるうちは、ガキだろ」
「……っ」
恥ずかしくなって、膝の中に顔を埋める。
セックスの後。
やっぱり、そうなんだ。
名前も知らないような女と、ついさっきまでリヒトは、そのベッドの上で抱き合っていたんだ。
ちらりと見上げると、開いたシャツの間から、色の白い、でも今は少し赤みを帯びている気がする胸が見えた。