いとしい傷痕
かっと顔が熱くなる。


リヒトは昔から本当に綺麗な顔をしていて、異常なくらいにもてていた。

無口で無愛想で、誰に対しても――どんなに可愛い子にも美人な子にも素っ気ない態度なのに、それでもいくらでも女の子が寄ってくるのだ。

彼の冷たさは、逆に彼女たちの瞳には『ミステリアスでかっこいい』と映るらしい。


それは今でも同じようで、やっぱりリヒトはたくさんの女の人たちから言い寄られているのだろう。


「そもそも、お前、どこからここの住所知ったんだよ。ユウコにもミサにも口止めしといたはずなんだけど」


私が黙っていると、リヒトはだるそうに頭の後ろで手を組みながら訊ねてきた。


ミサというのは私の母親で、リヒトにとっては姉だ。

ユウコはミサの母親、つまり私の祖母であり、リヒトの母親。

要するに私とリヒトは、いちおう叔父と姪という関係なのだ。


といっても、ミサとリヒトはかなり年が離れた姉弟で、リヒトは私と六歳しか違わないので、

叔父と姪というよりは兄と妹という感じで育った。


ちなみに、ユウコの夫、つまり私の祖父は、もう亡くなっているけれど、ドイツ人だった。

その影響なのか、それとも海外育ちで自由奔放な気質のユウコの方針なのか、うちでは家族のことを下の名前で呼び合っている。


子供の頃は、他の家とちがうのが気になって、おばあちゃんとかお母さんとか呼ぼうとしたのだけれど、

ユウコに『戸籍上の血縁関係なんかより、一人の人間として付き合うべきよ』と言われて、やめた。


でも、そのときの名残で、たまにリヒトのことを『お兄ちゃん』と呼びたくなるのだ。


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