いとしい傷痕
「やっぱりリヒトが口止めしてたんだ。ユウコもミサも、何回訊いても全然リヒトの居場所教えてくれないんだもん、困ったよ」

「お前がこういうふうに突撃してくるって分かってたから、絶対教えるなって言っといたんだよ」

「リヒトの意地悪!」

「うるせ」

「でも、いいもんね。結局、ユウコがリヒトのマンションの保証人になってる書類見つけて、この住所分かったから」


にししと笑いながら言うと、リヒトはわざとらしくため息を吐いた。


「そういうことかよ。……ったく、しつこいなお前は」


呆れて物も言えない、というように彼は首を傾げて、また煙草を吸いはじめた。


「とにかく、ここに住むなんて許さない。どこか適当に部屋探せ」

「え~……せっかく東京に住めるのにリヒトと一緒に住めないとか、意味ない」

「知らねえよ。勝手に来たくせに文句言うな」


話を切り上げるように言って、リヒトが煙草をくわえたまま立ちあがった。

そのまま私の腕をつかんで、玄関へと引きずるように歩かされる。


「帰れ。俺は今からスタジオに行くんだ」

「そうなの? じゃあ、聴きにいく」

「いいわけないだろ、遊びじゃないんだぞ」

「邪魔にならないようにするから」

「いるだけで邪魔だ」


眉を寄せて冷たく言い放たれて、二の句が継げなくなった。


「帰れ。もう二度とここには来るな」


とんっと背中を押されて、玄関の外に出されてしまう。

慌てて振り向いたときには、もうすでにドアは閉まっていた。


「……相変わらず冷たい」


リヒトがだめと言うのなら、本気でだめなのだろう。

あわよくば、と思っていたけれど、やっぱりだめだったか。


ふうっと息を吐き出して、私はエレベーターのボタンを押した。


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