第2巻 Sicario〜哀しみに囚われた殺人鬼達〜
【S】の行方
side:セルリア
片付けが一通り終わり、俺を含め3人はソファーに腰を降ろしている。
俺、シャタム、ドールの順だ。
ドールとシャタムがアトリエに訪れてから、不思議と頭の中は静かになっている。
五月蝿かった時に何を言い合っていたのかもう思い出せない。
だが、“俺(?)”と“あの女”の声だったと言う事は覚えている。
「1人暮らしの日々は如何だい?セルリア。
そろそろ兄さんの手料理が恋しくなる頃だろ?」
「別に...飯なんてコンビニで買えるだろ。
其れよりお前の髪型なんだよ。
何時ものデコ出しスタイルは如何したんだ?」
「今日は休日だからね。」
「休日っつっても仕事なんか突然入るだろ。」
「気持ちの問題さ。」
ドールは瞳を細めて口角を上げる。
喋り方といい、笑顔といい...ギフトにそっくりだ。
シャタムはテレビをつけ、菓子を食べている。俺とドールの会話には興味を示していない。
「で、突然何の用だよ。」
「用なんか無いさ。」
「嘘付け...。如何せギフトの差し金だろ。
何を企んでんだ?」
「企んでるなんて酷いな〜。本当に唯来ただけだよ。信用無いな...。」
ドールは肩を上げて溜息をついた。
「有るわけねぇーだろ。俺の事嫌ってる癖に。」
ドールの目が大きく開かれる。如何やら予想外だったようだ。
逆に気付かれていないと、如何して思えたんだ。
ギフトが俺に声を掛けるだけで、殺気じみたモノを俺に飛ばしているのに。
「へぇー...気付いてたんだ。馬鹿だから気付いてないと思ってた。」
「馬鹿は余計だが、其の殺気を如何にかしたらどうだ?
俺は悪くねえーぞ。俺に目を付けたのはギフトだからな。恨むならギフトを恨め。」
「兄さんは悪くないよ。君と言う存在が悪いんだ。
でも、安心してよ。兄さんがセルリアを大事にしている限り、ボクは手を下さないから。」
笑顔だが、其の声は重々しい。
全く安心出来る話では無い。寧ろ早い内にドールを殺す方法を考えなくては気が気ではない。
ドールの怪力は何より厄介だからだ。車や瓦礫をほいほい投げられては、殺れるものも殺れない。
「まぁでも...ボクが君を殺したいくらい恨んでも、兄さんは絶対ボクを見てくれないんだよね。」
「お前もそんな事、考えるんだな。」
「君みたいに馬鹿じゃないからね。」
明るいドールの声が今度は虚しく聞こえた。
世界で一番愛している存在が、世界で一番己を嫌っているのだ。更に其れが兄弟同士なのだから、複雑さは増すばかりだ。
「捨てられないだけマシだろ。」
「おや?其の言い方だと、君は捨てられた経験が有るのかい?」
「...さぁな。如何でも良いだろ。」
そっぽを向くと、ドールに頬を指でつつかれた。
角張った太い指は少々痛い。
睨み付けるように目だけドールに向ける。
「おー、怖い怖い。」と棒読みに言って、指を離した。
「睨まないでよ。セルリアの眼光って結構鋭いんだよ。知ってた?」
「知るかよ、お前がやんなきゃ良い話だろ。」
「良いじゃないか。」
「其れより...ギフトは何時来るんだ?」
再びドールの表情が驚きに彩られる。
「如何したの?やけに察しがいいね。」
「ギフトがわざわざ、お前を俺に寄越したんだ。
彼奴も来るって事だろ?」
「ご名答。拍手してあげようか?」
「要らねぇ。」