第2巻 Sicario〜哀しみに囚われた殺人鬼達〜
僕はそういう気は全くと言って無いのだが...。
「ぼくはちょっと不幸な、其れで律儀な...そんな、つまらない女なんだよ。」
「知ってる。」
顔を伏せているのか、後頭部にルルの吐息がかかる。
「生理前かい?」
「デリカシーの無い奴は嫌いだ...。」
せめて気遣いがあるって言って欲しいな。
「良く効く痛み止め有るけど如何かい?」
「何で持ってんの?」
「紳士だろ?」
子供の中には、生理痛が有る子がいるから、持っているんだけどね。
高感度が下がるな...。
「だから気持ち悪いんだよ。化け物...。」
「君にしては安直な暴言だな。」
「化け物に、化け物って言って何が悪い...。化け物...。」
ルルにしては弱々しい声だ。
「君さては、嫌な事があったな!
其れで僕に甘えてきたのか!?」
「...違うし......。」
図星だ。
右足が痛いって言うのは、嘘の口実...。
嗚呼、ルルらしい。
義足を一通り見ても、特に異常が無い筈だ。
「話を聞いてあげようじゃないか。
君が嫌いな化け物が。」
「そんな、嫌ってない...。」
「はい、はい。何があったんだい?」
ルルは視線を下げて、口篭りながら口を開き始めた。
「母様(かあさま)が死んだ夢...。心電図が波を打たなくなって、ピー、ピーって電子音が室内に響き渡る。そんな夢...。
怖かった。死んでしまう程怖かった。
母様が死んだら...“あたし”...、」
母親関係か...。
ルルは僕と違って母親が大好きで大切なんだ。
命よりも大切で尊い者なんだ。
対して僕は、母親が嫌いだ。最初は、生きていく上で仕方無く一緒にいたが、僕を正確には僕達兄弟をあの施設にやってから、僕は絶対彼奴等を殺すと心に決めた。
そして、実行に移した。
其れは其れは今までに無い最高の笑顔で殺してやった。
殺してあげた。
だが、ルルは違う。
本当に心から愛しているんだ。
僕には何年経ったって、理解出来ない尊い感情をルルはずっと持っている。
羨ましいと思う反面酷く妬ましかった。
如何して僕は理解する事が出来ないのだろう。僕の探究心は嘆いている。
ルルに退ける様肩を静かに叩いた。ルルが退くと、僕は隣に着いた。
瞳が潤んでいるのがよく解る。
涙ぐむルルの頭を撫でながら、胸を貸した。
「安心しな。君の母親は死んでない。
其れは君がよく知っているじゃないか。」
「だけど...何時、死んじゃうか解らないだろッ!」
生身の右手で僕の胸板を叩く。
痛くはないが衝撃は伝わる。
「人は何時か死ぬさ。其れを君が嘆く事は無い。
君は精一杯やり遂げている。
...気が晴れないなら、幾らでも僕を頼ると良いさ。」
「...ちょっと、黙ってて。」
「はい、はい、仰せのままに。」
ルルは、彼女は僕の白衣の襟を握り締めて、胸に顔を埋めた。
彼女は稀に、堰を切ったように、僕に泣きつく。僕だけの特権みたいな感じがして、少しばかり嬉しい気がするのは、彼女には黙っておこう。
強気な女の子に泣きつかれるっては、これまた男として嬉しいじゃないか。
其のままベッドに連れて行きたいのは、やまやまだが嫌われるのは嫌だから連れて行かない。
僕にしては珍しく、女性に対して気を遣う。
「誰にも言うなよ...」
落ち着いたルルが、顔を上げずに呟いた。
「言わないよ。泣き虫な女の子は、そんな心配しなくて良いんだよ。」
肩をとんとんと叩いて、宥める様に言う。
「子供扱いしないでよ。ぼくは歴とした成人女性だよ。」
「僕にしては子供も同然だ。」
其れに、泣きつく時点で充分子供だ。
「たった5歳違いだろ。」
「5年も後に産まれたんだ。充分さ。」
「精神年齢は幼児と変わらない癖に...。」
子供とは良く言われるけど、幼児は初めてだな。
でも嫌だな...これでも29なんだけど。
「酷いな〜、せめて自分に素直って言って欲しいな。
て言うか、幼児は無いだろ。幼児は。」
「ハハハッ...幼児で充分だろ。あんたは。」
「酷いな〜。僕拗ねちゃうよ!」
頬をルルの髪に擦り付ける。
離れようとするルルを抱き締めて、診察台に倒れ込む。
「何で抱き締めるの?離してよ。」
「んー、何となくさ。」
「これじゃまるで、あんたと恋人みたいじゃないか。気持ち悪い。」
「アハハハッ!!僕と君が恋人!?アハハハハ!!!」
僕は大笑いした。
ルルが五月蝿そうだったが、笑いが勝った。
「恋人ねぇ...アハハ、其れは互いに愛を共有している男女を示すものだろ。
僕と君の間に愛なんて道徳的なものは存在しないだろう。」
「...そうなんだ。」
ルルは素っ気なく言った。
「え!?何?君はそう言うモノを持っていたのかい!!?」
驚いて上半身を上げた。
ルルに限ってそう言う気を、起こす事は無いと思っていたのだが...。
「持ってないよ!!気持ち悪い!!キモい!!」
「じゃ、じゃ何でそう思ったんだい?」
互いに半パニック状態になってしまっている。
だって、僕には縁の無い事だと思っていたから...。
「だってあんたが、そういう風に接するからでしょ!!!」
「はぁ?僕が?」
「仕事関係の女にこんな事するか!?普通?」
「......しない、ね。」
常識的に考えてみればそうだ。
至って普通に接していたつもりが...如何言う事だ。
最大速度で頭を動かす、安心した。僕には“愛”や“恋”なんて感情は無かった。
矢張り、やっぱり、思った通り。
僕にそんな感情は存在しない。
「ぼくはちょっと不幸な、其れで律儀な...そんな、つまらない女なんだよ。」
「知ってる。」
顔を伏せているのか、後頭部にルルの吐息がかかる。
「生理前かい?」
「デリカシーの無い奴は嫌いだ...。」
せめて気遣いがあるって言って欲しいな。
「良く効く痛み止め有るけど如何かい?」
「何で持ってんの?」
「紳士だろ?」
子供の中には、生理痛が有る子がいるから、持っているんだけどね。
高感度が下がるな...。
「だから気持ち悪いんだよ。化け物...。」
「君にしては安直な暴言だな。」
「化け物に、化け物って言って何が悪い...。化け物...。」
ルルにしては弱々しい声だ。
「君さては、嫌な事があったな!
其れで僕に甘えてきたのか!?」
「...違うし......。」
図星だ。
右足が痛いって言うのは、嘘の口実...。
嗚呼、ルルらしい。
義足を一通り見ても、特に異常が無い筈だ。
「話を聞いてあげようじゃないか。
君が嫌いな化け物が。」
「そんな、嫌ってない...。」
「はい、はい。何があったんだい?」
ルルは視線を下げて、口篭りながら口を開き始めた。
「母様(かあさま)が死んだ夢...。心電図が波を打たなくなって、ピー、ピーって電子音が室内に響き渡る。そんな夢...。
怖かった。死んでしまう程怖かった。
母様が死んだら...“あたし”...、」
母親関係か...。
ルルは僕と違って母親が大好きで大切なんだ。
命よりも大切で尊い者なんだ。
対して僕は、母親が嫌いだ。最初は、生きていく上で仕方無く一緒にいたが、僕を正確には僕達兄弟をあの施設にやってから、僕は絶対彼奴等を殺すと心に決めた。
そして、実行に移した。
其れは其れは今までに無い最高の笑顔で殺してやった。
殺してあげた。
だが、ルルは違う。
本当に心から愛しているんだ。
僕には何年経ったって、理解出来ない尊い感情をルルはずっと持っている。
羨ましいと思う反面酷く妬ましかった。
如何して僕は理解する事が出来ないのだろう。僕の探究心は嘆いている。
ルルに退ける様肩を静かに叩いた。ルルが退くと、僕は隣に着いた。
瞳が潤んでいるのがよく解る。
涙ぐむルルの頭を撫でながら、胸を貸した。
「安心しな。君の母親は死んでない。
其れは君がよく知っているじゃないか。」
「だけど...何時、死んじゃうか解らないだろッ!」
生身の右手で僕の胸板を叩く。
痛くはないが衝撃は伝わる。
「人は何時か死ぬさ。其れを君が嘆く事は無い。
君は精一杯やり遂げている。
...気が晴れないなら、幾らでも僕を頼ると良いさ。」
「...ちょっと、黙ってて。」
「はい、はい、仰せのままに。」
ルルは、彼女は僕の白衣の襟を握り締めて、胸に顔を埋めた。
彼女は稀に、堰を切ったように、僕に泣きつく。僕だけの特権みたいな感じがして、少しばかり嬉しい気がするのは、彼女には黙っておこう。
強気な女の子に泣きつかれるっては、これまた男として嬉しいじゃないか。
其のままベッドに連れて行きたいのは、やまやまだが嫌われるのは嫌だから連れて行かない。
僕にしては珍しく、女性に対して気を遣う。
「誰にも言うなよ...」
落ち着いたルルが、顔を上げずに呟いた。
「言わないよ。泣き虫な女の子は、そんな心配しなくて良いんだよ。」
肩をとんとんと叩いて、宥める様に言う。
「子供扱いしないでよ。ぼくは歴とした成人女性だよ。」
「僕にしては子供も同然だ。」
其れに、泣きつく時点で充分子供だ。
「たった5歳違いだろ。」
「5年も後に産まれたんだ。充分さ。」
「精神年齢は幼児と変わらない癖に...。」
子供とは良く言われるけど、幼児は初めてだな。
でも嫌だな...これでも29なんだけど。
「酷いな〜、せめて自分に素直って言って欲しいな。
て言うか、幼児は無いだろ。幼児は。」
「ハハハッ...幼児で充分だろ。あんたは。」
「酷いな〜。僕拗ねちゃうよ!」
頬をルルの髪に擦り付ける。
離れようとするルルを抱き締めて、診察台に倒れ込む。
「何で抱き締めるの?離してよ。」
「んー、何となくさ。」
「これじゃまるで、あんたと恋人みたいじゃないか。気持ち悪い。」
「アハハハッ!!僕と君が恋人!?アハハハハ!!!」
僕は大笑いした。
ルルが五月蝿そうだったが、笑いが勝った。
「恋人ねぇ...アハハ、其れは互いに愛を共有している男女を示すものだろ。
僕と君の間に愛なんて道徳的なものは存在しないだろう。」
「...そうなんだ。」
ルルは素っ気なく言った。
「え!?何?君はそう言うモノを持っていたのかい!!?」
驚いて上半身を上げた。
ルルに限ってそう言う気を、起こす事は無いと思っていたのだが...。
「持ってないよ!!気持ち悪い!!キモい!!」
「じゃ、じゃ何でそう思ったんだい?」
互いに半パニック状態になってしまっている。
だって、僕には縁の無い事だと思っていたから...。
「だってあんたが、そういう風に接するからでしょ!!!」
「はぁ?僕が?」
「仕事関係の女にこんな事するか!?普通?」
「......しない、ね。」
常識的に考えてみればそうだ。
至って普通に接していたつもりが...如何言う事だ。
最大速度で頭を動かす、安心した。僕には“愛”や“恋”なんて感情は無かった。
矢張り、やっぱり、思った通り。
僕にそんな感情は存在しない。