第2巻 Sicario〜哀しみに囚われた殺人鬼達〜
「無いよ。無い無い。」

「勝手に自己完結しないでくれる?
あと、離して。」


ルルに言われた通り離す。
其れにしても、“恋人”ねぇ...。
考えた事無かった。其れらしい人は何人も作った経験がある。
作った理由?そんなものは、瞳が綺麗だからに決まっている。
其れ以外、何があるって言うんだ。
でも、どの女性も初夜を迎えた時点で、飽きや如何しようも無い興奮で、殺してしまった。
今でもそんな女性達の美しき麗しい瞳は、僕の部屋やこの施設の戸棚に転々と置かれている。
ルルに何度も趣味が悪いと言われた。

何度殺しても、何度抉りとっても、何も感じず何も思わなかった。
宝探しみたいにわくわくしながら、子供の無邪気さも同然に笑っていた。

この様に 、ルルに接するように、女性に接した記憶は、僕が覚えている限り無い。
存在しない。
嗚呼、だからルルが勘違いしたんだ。
随分...其れまた随分、僕は変わり果ててしまったね。
可笑しいの...。


「僕は君対して、そんな感情は抱いてないって事さ。
そもそも、僕に“愛”とか“恋”とか、いかにも君が持ってそうなモノは、持ってないよ。」

「なら、良いけど...。
あんたとそんな関係なんて、酷く吐き気が込み上げてくるよ。」


ルルは口元に右手を当て、吐きそうだと言う仕草をとる。


「トイレ借りていくかい?」


笑顔でトイレの方向を、指で示しながら僕は答える。


「余計なお世話だ。」

「紳士だと言ってくれよ。こんなに女性に優しい僕なんて珍しいんだ。」


嘘ではない。本当に珍しいんだ。


「自分で言うか。自分で。
絶対口説き文句でしょ。」


ルルは其れさえ、僕のしょうもない冗談だと思っている。
日頃の行いが悪いのだ。
特に、撤回する気は無い。


「だから、僕はそんな感情は抱いてないって!!
君も執拗いなッ!!」

「あんたが執拗いんだ!!」


良い大人が2人して、声を上げる。
齢10といかぬ子供の様に声を上げる。


「解ったよ。でも仕方が無いだろう。
そう言う人だと思っててくれよ。」

「充分思ってる。じゃ、用は済んだしぼくは帰るね。」


ルルは診察台から降りると、出口へ向かって足を運んだ。
ストレス解消の為だけに、本当に此処に来たのか。
僕は何時の間にルルのカウンセラーになったんだ。

出て行きそうになるルルを引き止める。
また抱きしめようとか、抱き虐げようとか、そう言う事をする為では無い。
思い出した。
思い出した事柄があったからだ。そう、ルルに伝えようとしていた事柄を。


「あっ、ちょっと待って!」

「何だよ?もう抱き枕にはならないからな。」


察したかの様に、ルルが言うが全く違う。


「其れは充分堪能したから良いよ。
僕が引き止めたのは別の用件で。」

「...仕事?」


面倒臭いと言う気持ちが、声に表れている。
一応、雇い主なんだけどな...僕。


「違うよ。これは誘いだ。」

「あんたの誘いか...本当、珍しい事もあるもんだ。」


引き返して、ルルは僕がまだ座っている診察台に座った。


「ルル、絵は好きかい?」

「好きか、嫌いか、なら好きだけど。
其れが如何した?」


ルルが首を傾げる。


「なら良かった。」


僕は満面の笑みでルルを見返す。


「ルル、絵画の展示会に行こう!!」

「はぁ?」


ポカンとしているルルを差し置いて、僕は白衣を脱ぎ、ハンガーに掛けて置いたコートを着た。
暑さも寒さも感じない僕にとって、必要なのか、と思われそうだが、感じないだけであって体には影響が出る。
凍傷などにならない為にも、防寒は大切だ。

硬直状態のルルの手を引き、僕は宣言通り絵画の展示会へ足を向かわせる。
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