溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜



 職場に着いて、お茶を配った。

 化粧ポーチを手に、鼻歌を歌いながら、お手洗いに向かっていると、いきなり後ろから小突かれる。

 振り向くと、拓海が立っていた。

「あれっ? 今、殴った?」

「殴ったよ」
と拓海は言う。

「行きがけの駄賃ってやつ?」
と言ってみたが、拓海は笑わず、

「なんで、課長が彰人さんを知ってるんだ」
と言ってくる。

「へ?
 昨日見たから」

「……昨日、お前んちに来たのか」

「来たっていうか。
 送ってくれたの」

「二人で呑んでたのか」
「え、なんで?」

「だって、今朝、タクシーかと思ったってお前言ってたろ。
 課長、昨日、お前と呑んで、車置いて帰ったんだろ」
と言ってくる。

「すごい。
 探偵みたいだね、拓海」
と言ってみたが、やっぱり、拓海は笑わず、

「付き合ってんのか、課長と」
と言ってくる。

「……全然」

「今、声が裏返ったぞ」
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