溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜
「いや、ほんとに違うって」

 だが、そう言いながら、あのキスを思い出していた。

 ただ、酔っていたので、記憶が曖昧だった。

 あれは本当にあったことだったのか。

 それとも、夢なのか。

 自分のトラウマまで、昌磨に話してしまったのも。

 もしかしたら、夢なのか。

 まずいこと言っちゃったな、と思っていた。

 でも、突き飛ばしてしまった理由を言わなければ、昌磨に嫌われてしまいそうな気がしたから。

「なに渋い顔してんだよ」
と拓海が機嫌悪く言ってくる。

「んー。
 なんでもないよ。

 でも、課長と付き合うなんてないよ」

 そうしんみり言った。

 課長が私なんか好きになってくれるわけないし。

 それ以前に、あのトラウマを克服しなければ。

 他所で練習して来なくていいんだぞ、という昌磨の言葉を思い出す。

 課長でも無理なのに、他所で練習なんて出来るわけないじゃないですか。

 そう思いながら、
「じゃあ、またねー、拓海。
 なんだかわからないけど、心配してくれて、ありがとう」
と手を挙げ、歩き出す。

「いやっ、おい、花音っ」
という声が聞こえた気がしたが、もう女子トイレに入ってしまっていたので、拓海はそれ以上追ってはこなかった。


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