溺愛御曹司の罠 〜これがハニートラップというやつですか?〜
「なに沢木くんと揉めてんの?」
女子トイレに入ると、また鏡の前に居た香穂が訊いてくる。
「いや、揉めてるわけじゃないんですけどね」
と言いながら、花音は鏡の下の棚に化粧ポーチを置いて、溜息をついた。
「ふーん。
喧嘩するほど仲がいいって言うもんね」
「なんですか、その冷たい目」
と言うと、
「いやあ、あんなこと言ってたけど、やっぱりってならないかな、と思って」
と言ってくる。
「ならないですよ。
拓海はないです」
「やけにキッパリ言うわね」
「はい。
奴は敵ですから」
「……敵?」
「敵です」
と言いながら、鏡を見て、朝つけ忘れたグロスを塗る。
「相変わらず、なんだかわかんない女ね」
と言う香穂の側で、あっ、と声を上げると、
「どうしたの?」
と訊いてくる。
「そうだっ。
朝、課長に会ったのにっ。
グロス塗り忘れてたっ。
あれ塗らないと、この色、ちょっと老けて見えるのにー」
「いや、あんた、ほんと呑気ね……」
と言いながら、香穂は化粧品をしまっていた。