溺愛御曹司の罠 〜これがハニートラップというやつですか?〜
最初に見たのはテレビでだった。
すごいなー。
お兄ちゃんとそんなに年違わない子なのに、と思った。
そのうち、彼は『情熱の貴公子』と呼ばれるようになった。
クールな顔と演奏のミスマッチも受けたらしい。
トーク番組などに出ることもなかったので、何処の誰かもよくわからず、ミステリアスなのもまたよかった。
あのとき、会場で彼の演奏が終わっても、私はぼんやり口を開けて座っていて。
お兄ちゃんは立ち上がり、夢中で拍手していた。
あんなお兄ちゃんを見たのは初めてだった。
その人の演奏が今はあんなに間近で聴けるなんて。
彰人が帰ったので、ゆっくり眠れると、早めに布団に入った花音は、うとうとしながら、いろいろと思い出していた。
しかも、あの手に助けてもらったし。
花音は昌磨の長くて細い指を思い、彼の演奏を思った。
神の手だ――。
キスってものは、なんで口でするんだろうな、とふと思った。
手と手でするんだったら逃げないのに。
……いや、そりゃ握手か、としょうもないことを考えているうちに、眠りに落ちた。