溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜
「走り屋か、その一見、おとなしそうな顔で」
と言われたが、

「違いますよ。
 おばあちゃんちが峠の向こうにあるからですよ。

 田舎のおじいちゃんとか運転すごいですよ。

 峠とかやっぱり、通常の道と違ってコツがあるから、私、ハチロクを軽トラのじいさんが軽く抜いていくのを見ました。

 うちの父親もオートマなのに、両足運転ですよ」

 左足ブレーキで、と言うと、
「だから、走り屋か」
と言われる。

「走り屋、オートマ乗らないでしょう?」

「乗るんじゃないか?」
とかくだらない話をしていた昌磨がウインカーを出した。

 車はコンビニに寄る。

 降りた花音が大きく伸びをすると、昌磨が笑った。

 こうして、二人でコンビニ行ったら、カップルに見えないかな。

 ……見えないか。

 昼間に二人でスーツだもんな。

 明らかに仕事だ。

 缶コーヒーとキャンディを買って車に戻ると、昌磨が、
「ドライブスルーでコーヒーでもいいかと思ったんだが、まあ、一度、降りた方がいいかと思ってな」
と言う。

「エコノミー症候群になるかもしれないですもんね」
と言うと、

「この距離でか」
 飛行機じゃあるまいし、と言う。

「課長は飛行機よく乗られるんですか?」

 昔はな、と言う昌磨は何故か言葉少なだ。
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