溺愛御曹司の罠 〜これがハニートラップというやつですか?〜
ああ、着いてしまった。
車から降り、支局のビルを見上げた花音は気が重くなっていた。
松前のセクハラのせいだけではない。
楽しい昌磨とのドライブがこれで半分終わってしまったからだ。
「本当に待ってていいぞ」
そう言う昌磨を振り向き、
「いえっ。ご一緒させていただきますっ」
この下僕が、お供致しますっ、という勢いで言うと、昌磨はうつむきがちに少し笑ったようだった。
うわっ。
どうしよう。
やっぱり、めちゃめちゃ好みなんですけどっ。
顔はっ。
いやっ、顔と手はっ!
「芹沢」
「は、はいっ」
「無事に終わったら、下で食べていくか」
と昌磨は親指で、駐車場の前、支局のビルの一階にあるガラス張りのレストランを指差す。
ええっ。
一緒にお食事とか滅相もないっ。
なんだか食事が喉を通らなさそうだが、と行く前から、花音は緊張してしまった。
昌磨は、たぶん、元気づけるために言ってくれたのだろう。
逆に動揺が激しくなってしまったが、と思っている間に、支局長のところにたどり着いていた。