溺愛御曹司の罠 〜これがハニートラップというやつですか?〜
おっ。
今日は、10時から小会議室でミーティングだった。
部内のスケジュールが書かれた壁のホワイトボードには、絶対参加!! と吹き出しつきで強調してある。
変則的に行われるミーティングは社外に出てたりして、うっかりする人が多いからだ。
人事異動の季節。
花音や拓海に移動はなかったが、花音の上司は全然違う部署に異動になった。
「ヤバイよ。
今から新しいこと覚えるなんて、無理無理~っ」
と言いながら、お地蔵様のような人の良い上司、合田(あいだ)は異動の準備をしていた。
ミーティング開始2分前に、合田は急いできたのか、軽く汗を掻いて現れた。
企画の内容のせいで、今日は拓海も一緒だ。
ロの字型の長テーブルで、花音は入り口付近に座っていた。
ひとつ隣の席に居た拓海が、
「あ」
と声を上げる。
折れたシャーペンの芯が飛んできて、花音の額に当たった。
「てっ。
拓海っ」
押さえた声で叫んだが、拓海は、
「ああ、すまん。
お前、ついてるな。
今日は、きっといいことあるぞ」
とたいして謝る気もない声で言ってくる。
自分と拓海の間に挟まれている、拓海の課の女の子が俯きがちに笑っていた。