溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜
 てめ~っ、と拓海を睨んだとき、合田が開いたままの扉を振り向いて言った。

「あ、飛鷹課長、どうぞ。

 本社から来られた飛鷹昌磨(しょうま)課長です。
 僕の後任になります」

「えっ、若っ」
と現れた昌磨を見て、誰かが小さく声を上げた。

 チーフじゃなくて、課長?

 若く見えるけど、見えるだけかな。

 自分より少し上くらいに見える、と思った。

 どうでもいいけど、格好いいな。

 何処も遜色ない整った顔立ちに身体つき。

 男にしては白い肌が、その風貌を引き立たせている。

 乱れなく整った艶やかな黒髪を見ていたとき、なにかのフレーズが頭を過ぎりそうになったが、すぐに消えた。

 昌磨と目が合って、どきりとしてしまったからだ。

 しかし、何処かで見たような、と思ったとき、花音の手許から、ひらりとそれは舞った。

 うっかり肘で突いてしまったらしく、配られた書類が落ちたのだ。

 まだ入り口付近に居た昌磨が腰を屈め、それを拾ってくれる。

 滅相もない、申し訳ございませんっ、と謝りたくなる。

 王子に庶民が物を拾ってもらったような気分だった。
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