溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜
 振り返ったときには、扉は閉まっていた。

 侮れないな。
 さすが、花音の兄、と思った。

 まるで気づかぬ風を装っていたのに。

 花音には口止めしておいたので、彼女がしゃべったわけではないだろう。

 自分が職場の人間であることも知らなかったようだし。

 それにしても、あれが兄貴か。
 顔は似てるが、花音とは全然、雰囲気が違う。

 あれがずっと側に居たら、相手の男に求めるハードルも上がるだろうな、と思った。

 両隣の家を見て、このどちらかがあのデカイ男、沢木拓海の家か、と思う。

 いつも二人で楽しそうにしているのを見ていると、少しイラつくのだが。

 あれこそ、兄妹のように見えなくもない。

 去ろうとしたとき、花音の間の抜けた叫び声と、兄貴の怒鳴る声が聞こえてきた。

 ……またなにをやらかした、花音、と振り返りながらも、夜道を歩き出す。



< 99 / 232 >

この作品をシェア

pagetop