早く俺を、好きになれ。
売るのはマフィンやカップケーキやクッキーなどの洋菓子がほとんど。
どれもこれも全部手作りで、マフィンとか作れる先輩を本気で尊敬しちゃう。
「忙しいから覚悟してね」と先輩に釘を刺され、調理室をあとにした。
「市口さん……!」
階段を上って教室に向かっていると、後ろから呼び止められて不意に足が止まる。
「呼び止めてごめんね」
そう言いながら、息を切らした織田さんが目の前にやってきた。
織田さんの家に行った日以来、何となく避けてしまっているから気まずくて仕方ない。
あの日泣いてた織田さんは、あのあと私に謝ってくれたけど……。
武富君とはどうなったのか、それはわからない。
あの日、武富君は頑張ってみるって言ってたし、もしかしたらヨリを戻したのかも。
もともと、織田さんも武富君のことが好きなんだもんね。
「今日の売り子、頑張ろうね!クラスでの店番の時間が少し被ってるから、5分くらい遅れるかもしれないけど」
「大丈夫だよ、私がカバーしとくから」
ふんわり笑った織田さんに、私も笑う。