早く俺を、好きになれ。
chapter*5
言わせてやるよ
あっという間に日々は過ぎ去り、気付くと秋から冬に移り変わっていた。
12月に入って、もうすぐ冬休みを迎えるという時期。
期末テストも終わって、あとは冬休みを待つばかり。
だけど、今でも心に空いた穴は埋まっていない。
その原因は……ただひとつ。
虎ちゃんのこと。
クラスの誰が話しかけてもまともに話そうとせず「ああ」とか「うん」とか短くてそっけない返事ばかり。
斎藤君やバスケ仲間ともあからさまに距離を置いて、今ではもう誰とも笑っている姿を見なくなってしまった。
虎ちゃんの周りには常に誰かがいたのに、孤立している時間が多くて。
休み時間や昼休みは、まるで私やバスケ仲間を避けるようにさっさと教室を出て行ってしまう。
そんな異様な光景に、クラスの雰囲気もどんより暗くなってしまった。
それだけ、虎ちゃんの影響力は凄まじかったんだと今になって実感。
あの子への告白の返事も……わからないままだ。
『考えさせて』って言ってたくらいだし、もしかしたら付き合っているのかもしれない。
もしかしたら、今も一緒にいるのかも。
そう考えるとものすごくツラいから、今では考えないようにしてる。
「咲彩って呼んでもいい?」
水曜日の放課後、調理室で作業中に織田さんが話しかけて来た。
なんのためにやっているかわからなかった調理部だけど、入ったからにはやり遂げようと思って退部はせずに今日までやってきた。
「うん。じゃあ、私も柑菜って呼ぶね」
「うん!」
織田さん……柑菜とは、毎週顔を合わせるからずいぶん仲良くなった。
前は武富君のことがあったから一歩引いてた部分があったけど、今はもうそんなこともなくなった。
だからこそ、一気に距離が縮まったんだ。