早く俺を、好きになれ。
「わー、遅くなっちゃった!」
早く帰らなきゃ最終下校時間がすぎちゃう。
急ぎ足でパタパタ廊下を走った。
そして、たどり着いた昇降口で思わず足を止めそうになる。
ーードキン
「おせーよ」
坊主頭の虎ちゃんが、寒そうにマフラーに顎先を埋めて立っていた。
いつから待ってくれていたのか、鼻の頭が真っ赤。
「ご、ごめん。部活のあと、教室に忘れ物を取りに行ってたの」
こうやって2人きりになるのはあの時以来で、なんとなく緊張する。
「ん」
スッと差し出された手のひら。
虎ちゃんは照れくさそうに頬を掻いている。
またお菓子の催促?
そう思ってカバンからドーナツが入った袋を取り出し、虎ちゃんに渡した。
「うお、うまそー!店で売ってるドーナツみたいじゃん」
目を輝かせて笑う虎ちゃん。
なぜだか、その笑顔に胸が締め付けられる。
前までなら、こんなことは考えられなかった。
私、虎ちゃんのことが……好き、なのかな。
まさか待っていてくれてるとは思わなくて、会えて嬉しいとか思っちゃってる。
「うまっ!やっぱ咲彩が作るのはなんでもうまいな」
「そ、そう……?柑菜に教えてもらいながら作ったんだけど」
「上出来、上出来」
「へへっ、ありがと」
嬉しくて思わず頬がゆるむ。
やっぱり、食べてくれる人がいるっていいな。
「ん」
「え、おかわり?仕方ないなぁ」
「ちがう」