上司、拾いました
第1章

紗彩、上司を拾う

「……寒っ」


 十一月も下旬となれば、それ相応に肌寒くなるものだ。

 そんなことは昨日の天気予報と、これまでの二十四年間の人生を考えてみれば簡単に予想がつくはずなのに。

 それなのに、どうして私はきちんとコートを着て出て行かなかったのだろう。

 いや、確かに、電車で暑くなって荷物になるのが嫌だったのだけれど、どうして夜のことまできちんと考えなかったのか。

 そう自分自身の考えの浅はかさを呪いながら、私は午後十一時の夜道をひとりで歩いていた。


 今日は土曜日を目前に控えた金曜日。

 同期の女子面子と食事をしてから、日ごろの鬱憤を払うためにカラオケで熱唱。

 存分にストレスを解消した後、明日も予定があるという子の都合を考えて解散となった。


 まあ、彼氏などいない私には関係もない話だが。

 明日はひたすらゴロゴロして、うだうだしながら無駄に一日を消化する予定だ。

 なんて贅沢な休日の浪費……その一日を終えた頃には謎の空しさを感じるだろうが、そろそろ毎度のことなので慣れてきてしまった感がある。

 ううん、さすがにそろそろ外へ出て、出会いとやらを探してみた方がいいのかもしれない。

 このままだと本気で売れ残ってしまう自分が容易に想像できる。


「でもなんかもう……恋愛とか面倒くさいな」


 大学生の頃に痛いめを見たので、割と切実にそんなことを思う。

 そう侘しさも極まったことを考えつつ、自宅であるアパートへ到着した。
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