上司、拾いました
　そして戻ってきた東間さんは、すでに泥酔状態で廊下に寝転がり、二日酔いで苦しんでいる残念なイケメンとは程遠いものになっていた。

　職場で見る一切の隙がない、乱れ一つない髪と服装。

　ネクタイも昨晩とは違って、きちんと逆三角形の結び目。

　おそらくこの姿を外で見る人たちは非の打ちどころのないイケメンとして東間さんを見るのだろう。

　対して私だけは、実はこの人が入浴できておらず、服も昨日と同じだということを知っている。

　ちょっと優越感。


「お風呂とか、どうされるんですか？」
「暇がない。一回部屋に戻って着替えだけしていく」
「それならネクタイしても意味ないんじゃ……」
「…………」


　図星だったのか、東間さんは悔しそうに視線を逸らして無言でネクタイを解いた。

　やっぱりまだ、残念なままだ。


「それと、これおにぎりとお茶です。軽食程度ですが、朝ごはんにどうぞ。ペットボトルも袋も、捨ててもらって構いませんので」
「……いいのか？」
「どうぞ」


　ここまで来れば乗りかかった船だ。

　今朝は東間さんを全面支援しよう。

　私が休んでいる中でも、同じ課で働いてくれているわけだし。

　そもそも、この人はいろいろな仕事をひとりで引き受けすぎだとも思うのだが。


　おずおずと袋を受け取った東間さんは、「何から何まで、すまん……」とぎこちなく言った。

　そんな上司を玄関まで見送り、「では、お気を付けて」と私は手を振る。


「……必ず礼はする」
「はい」


　最後の最後まで歯切れの悪かったその人を見送り、扉を施錠してから中に戻った。

　なんだかんだと眠りが浅く、体もやっぱり節々が痛い。


「これはもう、二度寝しかないですね」


　欠伸をしながらベッドにダイブすると、ほんのりいつもと違う匂いがした。

　なんの匂いかよくわからなかったけれど、多分東間さんの匂いだろう。

　そんなことをぼうっと考えている間に、私は優雅な二度寝タイムに落ちて行った。
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