上司、拾いました
東間さん、借りを作る
「東間主任、おはようございます」
「……ああ」
現在時刻は午前九時ジャスト。
職場に近いという理由で一年前に越してきたアパートから約二十分。
ほぼ全力疾走で職場に辿りついた東間は、平日に比べ閑散としたオフィス内で完全に息を切らしていた。
その様子を何事かと見る同僚がいる一方で、一人の男が穏やかな口調で近寄ってくる。
「珍しいですね。東間主任がこんな時間に出社してくるなんて」
「……少し、寝過ごした」
寝過ごしたのは本当の話だが、事実とは程遠い。
ほんの三十分前の出来事を思い出しつつ、東間は息を整えて顔を上げる。
するとすぐ傍には、落ち着いたブラウンの髪に、穏やかな垂れ目が特徴的な男が立っていた。
佐伯光一(さえきこういち)。
東間より二期下の部下にあたる。
現在受け持っているプロジェクトチームの一員であり、和やかな物腰とその人当たりの良さで、鬼の社畜と恐れられている東間にも普通に話しかけてくる珍しい人間だ。
東間自身はよくわかっていないが、二人で並んでいる様子は『タイプの違うイケメンのツーショット』として広告営業課の名物となっている。
見ているだけならとても幸せな気分になれると、女性社員ではパワースポット化している節さえもあった。
「へえ。そういえば昨日は早めに上ってましたけど、呑みにでも行ってたんですか? それで二日酔いとか」
「……別にいいだろ、俺の話は」
まるで見て来たかのように言い当てる部下に戦慄しつつ、東間は自分のデスクへと向かう。
佐伯は穏やかな雰囲気の割に押しが強く、一で頼んだ仕事も必ず十にして返してくる信頼のおける部下ではある。
が、どこか得体の知れない雰囲気があり、察しもあまりに良すぎるため、あまり踏み入った話をしたことはなかった。
「来週のプレゼン、今日明日中には仕上げるぞ」
「承知しました。今日も頑張りましょう」
にこにこと笑う佐伯は、そう言ってそれ以上の話を聞いてくることはなかった。
「……ああ」
現在時刻は午前九時ジャスト。
職場に近いという理由で一年前に越してきたアパートから約二十分。
ほぼ全力疾走で職場に辿りついた東間は、平日に比べ閑散としたオフィス内で完全に息を切らしていた。
その様子を何事かと見る同僚がいる一方で、一人の男が穏やかな口調で近寄ってくる。
「珍しいですね。東間主任がこんな時間に出社してくるなんて」
「……少し、寝過ごした」
寝過ごしたのは本当の話だが、事実とは程遠い。
ほんの三十分前の出来事を思い出しつつ、東間は息を整えて顔を上げる。
するとすぐ傍には、落ち着いたブラウンの髪に、穏やかな垂れ目が特徴的な男が立っていた。
佐伯光一(さえきこういち)。
東間より二期下の部下にあたる。
現在受け持っているプロジェクトチームの一員であり、和やかな物腰とその人当たりの良さで、鬼の社畜と恐れられている東間にも普通に話しかけてくる珍しい人間だ。
東間自身はよくわかっていないが、二人で並んでいる様子は『タイプの違うイケメンのツーショット』として広告営業課の名物となっている。
見ているだけならとても幸せな気分になれると、女性社員ではパワースポット化している節さえもあった。
「へえ。そういえば昨日は早めに上ってましたけど、呑みにでも行ってたんですか? それで二日酔いとか」
「……別にいいだろ、俺の話は」
まるで見て来たかのように言い当てる部下に戦慄しつつ、東間は自分のデスクへと向かう。
佐伯は穏やかな雰囲気の割に押しが強く、一で頼んだ仕事も必ず十にして返してくる信頼のおける部下ではある。
が、どこか得体の知れない雰囲気があり、察しもあまりに良すぎるため、あまり踏み入った話をしたことはなかった。
「来週のプレゼン、今日明日中には仕上げるぞ」
「承知しました。今日も頑張りましょう」
にこにこと笑う佐伯は、そう言ってそれ以上の話を聞いてくることはなかった。