上司、拾いました
 人間は数だけいても無駄だというのが、東間の考え方だった。

 ひとつの仕事に複数の人間が集まったとしても、かえって効率が悪い事などザラにある話だ。

 それならば、少数でも自分の信頼のおける人間で取りかかった方が遥かに物事が順序良く進む。

 かといって誰も彼もを役立たず呼ばわりするつもりもない。

 要は適材適所の問題で、なにをするにもその人間なりの得意分野があるという話だ。

 逆に言えば、苦手な分野にその人間を放り込んでも、物事は一向にうまく進まない。

 それを成長のためだという人間もいるが、そんな非効率な言葉など聞く耳を持ったことはなかった。

 
 そしてそれでも避けられない問題は初期に、徹底的なまでに矯正させるしかない。

 
 そんなある意味極端な思考のせいで、東間は現在、鬼の社畜と恐れられている。


「あれ? 東間さん、それおにぎりですか?」


 昼休憩などろくに挟まない東間だが、佐伯につかまった時だけは例外だった。

 他の人間であれば容赦なく追い払えても、この部下だけは妙に手に負えない。

 一見人の好さそうな笑みを浮かべているように見えるが、それは有無を言わせない鉄仮面でもあった。

 そんな調子で社内の休憩スペースにあるカウンターテーブルで、昼食を取ろうとした時だ。


「サランラップに包んでるってことは、まさか手作りですか? 東間さんが?」


 今朝三樹から渡されたものの、結局朝には食べられなかったおにぎりを見て、佐伯が目を丸める。

 手にしているメロンパンが落ちそうなほどに、露骨に驚いている様子だった。


「万年市販のお弁当とコンビニおにぎりの東間さんが、朝からおにぎり作って来たんですか?」
「お前、さすがに失礼だと思わないのか?」
「いやだって、こんなの初めて見ましたし」


 そう言って東間の顔とおにぎりを見比べる佐伯には、おそらく悪気はないのだろう。

 それほどまでに、普段の東間は一切の料理をしない。

 ここ数年お湯を沸かす、お茶を沸かす、食器を洗う以外の目的で台所を使ったこともない。

 なぜなら自宅とはただ寝に帰るためだけの場所であり、それ以外のことを基本的にしないからだ。
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