上司、拾いました
「お前だって、最近昼も夜も菓子パンばっかだろうが。人のことを言えた立場か?」


 手作りであることを追及されると困る。

 そう考えて話を逸らそうとすると、佐伯は「僕は料理できますから」とにっこり笑った。

 言われてみればここ最近が菓子パンばかりなだけであって、普段は自分で弁当を持参していることを東間は思い出す。

 二の句も繋げられない。


「それに、僕が菓子パンばっかり食べてるのにも理由はあるんですよ」
「理由?」
「ええ。これです、これ」


 佐伯はそう言うと、菓子パンの袋についているシールを指差した。

 それはよくある『ポイントを集めて限定商品と交換しよう☆』の類であるシール。

 ただの菓子パンであるためか、一ポイントと書いてあった。


「佐伯、お前。そんなものを集めるのが趣味なのか」
「僕が集めてるんじゃありませんって。後輩に集めてる女の子がいるんで、その子にあげようと思ってるだけです」
「ほう。随分お優しい先輩だな」


 後輩ひとりのために昼も夜も菓子パンとは、その女に気でもあるのだろうか。

 そう大した関心もなく、サランラップを解いておにぎりを頬張った。

 鮭の程よい塩辛さが、じくじくと溜まり始めていた疲れを解消してくれるような感覚がする。

 こんな風に、顔の見える誰かにおにぎりなんてものを作ってもらったのはいつ以来か。

 そんなことを考えながらお茶を飲もうとペットボトルに口を付けた時だった。


「まあ、こうでもしないと一ミリも笑ってくれませんからね。紗彩ちゃん」
「――ッ!?」
「うわッ、東間さん!?」


 あまりにもタイムリーな名前に、危うく口に含んだお茶を吹き出すところだった。

 むしろ気管に入り込んでしまい、東間はしばらく咳き込み続けてから、死にそうな思いでようやく息を整えた。
 
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