上司、拾いました

紗彩、悟る

 東間さんが出勤した後、結局私は昼前まで眠ってしまった。

 眠っている時は幸福感で満ち足りているのに、いざ目が覚めると損をした気分になるのはなぜなのだろう。

 それがわかっていても、やっぱり睡眠欲には逆らえないのだけれど。


 そういうわけで目が覚めた昼以降は、ひたすらだらだらと本や雑誌を読んで過ごした。

 特に好きな作家や雑誌のジャンルがあるわけでもないのだが、書店でタイトルや表紙を見て衝動買いしてしまうことはままある。

 そして積み上げたままの本を休日一気に読み上げるというのが、案外爽快だったりするのだが、周囲にはあまり理解されない。


 それにしても、結局東間さんがどうしてあれほど酔いつぶれていたのか、聞き出すことはできなかった。

 おまけに目も充血していたし、まさか泣いていた……いや、パソコン画面の見過ぎでドライアイという可能性もある。

 ただ、あの東間さんが目が充血するほどに泣く状況というのは……なんだろう。

 とても心配だ。

 職場でも仕事以外の話をしている相手は佐伯先輩以外に見たことがないし、悩みを相談できる相手はいるのだろうか。

 心身の疲れを両方溜め込んでいそうで、それもろくに吐き出す方法も知らなさそうで心配だ。

 余計なお世話かもしれないけれど。


 そんなことをぼーっと考えながら、午後七時半。

 冷蔵庫にあった鶏肉と卵とネギで親子丼を作っていたところ、インターフォンのチャイムが鳴らされた。

 
「はいはい」


 多分、律儀に今日中にお礼を渡しに来てくれた東間さんだろう。

 そう見当をつけて特に相手も確認せず扉を開ける。

 すると、米俵でも担ぐように大きなひよこのぬいぐるみを脇に抱えている東間さんが、居心地の悪そうな表情で立っていた。
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