上司、拾いました
「こんばんは」
「……ああ」


 何事かと思ったが、とりあえず普通に挨拶を交わす。

 百八十センチ超えのイケメンがひよこのぬいぐるみを持っているこの図。

 とても写メって拡散したい。

 ミスマッチが極まった結果、逆に似合っているような気さえしてしまう。


 というより、なぜひよこのぬいぐるみなんて持っているんだろうこの人。

 そんなに癒しを求めるほど、心が疲弊しているのだろうか。


「……お前が今朝言っていた店のものだ」


 ぎこちなく差し出されたクリーム色の紙袋は、見紛うことなきパレットの紙袋。

 本当に今日中に持ってきてくれるだなんて、本当に生真面目だなぁ。

 そんなことを思いながら「わざわざありがとうございます」と軽く頭を下げて受け取る。

 そして手にした瞬間、プリンひとつにしては、ずっしりとしていることに気付く。


「もしかするとプリン以外にも買ってもらったんですか? すみません、逆に気を遣わせてしまって」


 おそらく、プリンをひとつだけ買うというのもなんだと、他にも買ってくれたのだろう。

 そう考えて口を開くと、東間さんは「相応に迷惑をかけたからな」とバツの悪そうな表情で呟いた。

 まあ、食べ物はありがたい。素直に嬉しいお礼だ。


 だからもう一度お礼を言おうとした時、東間さんが何か言いたげに口の開閉を繰り返していることに気付く。

 ……?

 職場では何事もきっぱりと言う人であるため首を捻りながら待っていると、やがて東間さんがひとつ咳払いをしてから、例のひよこぬいぐるみの頭を掴んでこちらに差し出してきた。


「ついさっき、コンビニで買い物をしたら、クジで当ててしまった。俺は別に興味もないから、お前にやる」


 そう言って、東間さんは口をへの字にしてそっぽを向いた。

 おそろしいまでの説明口調だったが、くれるというからにはくれるのだろう。

 よくわからないながらも、可哀そうに頭を力強く握られているひよこを「……ありがとうございます」と引き取った。
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